かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第58回 2013.9.1
参加者
県外9名 県内9名 18名
講師 篠原シニアワインエキスパート
アシスタント
深澤さん、尚江さん
ゲスト
勝沼醸造(株) 安田 様

ワインリスト
1 勝沼甲州 シュール・リー 2012       勝沼醸造(株)
2 栽培者別 甲州ワイン(三森均一)2012    〃
3 勝沼甲州 樽発酵  2011    〃
4 牧丘 小公子 樽貯蔵  2008    〃




セミナーの内容
1 本日のワインについて
2 ワインを楽しむワンポイント  香りについて
3 ワインテイスティングの方法
4 本日のゲスト 勝沼醸造(株) 安田様のお話





レポート

あわや朝市直撃かと思われた台風が直前に温帯低気圧に変わってくれました。おかげで残暑の厳しい朝市となりましたが、無事に開催できて有難かったです。目まぐるしく変わる天候にもかかわらず大勢のお客様がワインセミナーに来てくださいました。  
セミナーを始める前に、いつものように試飲ワインのラインナップを並べたところ、皆さんカメラに収めてくれました。そして早速スタートです。



まず初めに、私篠原から本日の試飲ワインの説明です。今日は勝沼醸造さんの素晴らしいワインを4本予定していますが、初めの3本は甲州種です。同一のぶどう品種のワインでも、畑の違い、醸造法の違いによってワインの香りや味わいが変わってきます。その違いを感じていただけたらとおもいます。4番目のワインは赤ワインですが、とても珍しい小公子という品種です。


さすがの勝醸ファンの方でも、これは飲んだことのないマニアックなワインだろうと一人ほくそ笑んでいたのですが、やっぱりいるのですね。一人の方が飲んだことがあると手を上げてくれました。勝醸ファンに敬服しました。     
どんなワインだろうと皆さんに期待を持っていただいたところで、一寸その前に、テイスティングがより楽しくなる為のおさらいです。

「ワインを楽しむワンポイント…香りについて」
私もそうですが、皆さんもきっとテイスティングで一番悩むのが、ワインの香りをどう表現するかということではないでしょうか。


問「このワインの香りは何でしょうか?」答「ぶどうの香りです」でピンポンなら一番簡単でよいのですが、世の中はそう甘くはありません。(笑い)でも決して全て間違いでもないのです。ぶどうが完熟した時の甘い香りがそのままワインに出てくるのは、主としてアメリカ系のぶどう品種(ヴィティス・ラブルスカ)に多いのです。これらの品種は、デラウエアー、ナイヤガラ、巨峰、アジロン・・・など生食用として食べられるぶどうで、甘い香りで水分たっぷり、フルーティーでジューシーなぶどうです。これらの香りがワインに出てきた時には「原料のぶどう由来の香り」などと表現します。では、ヨーロッパ系のワイン専用品種(ヴィティス・ヴィニフェラ)、例えばシャルドネ、カベルネ・ソービニヨン、メルロー・・・などはどうでしょうか?完熟ぶどうの香りはあまり感じられませんので、これらのワインの香りを表現する時には、ぶどう以外の果物や、花、スパイス、木、土・・・などなどで表現するのです。


プロのソムリエさん達が香りの表現で使う言葉は、専門用語として決められている言葉を使っていますので、世界共通語です。今日はその中の簡単ないくつかの香りを表現する言葉を使って、1番目のワインを表現する練習をしました。
ちょっと難しかったかもしれませんが、これから甲州種ワインを飲むときに、1つでも2つでも香りが言葉で表現できたら嬉しいとおもいます。

引き続いて、お待ちかねのゲストの登場です。



今日はこの日本ワインの銘醸地、勝沼を代表する老舗ワイナリーのひとつであります勝沼醸造(株)の安田さんをお招きしました。安田さんは、ワイン関係の仕事に従事して15年、そのうち勝沼醸造さんで醸造に携わって7年目だそうです。フランスのブルゴーニュやボルドーでワインの勉強をされて、勝沼でワインを醸造したいとの思いで勝沼醸造さんで醸造の仕事に就かれたそうです。



自己紹介の後、早速最初のワインの説明です。

@ 勝沼甲州 シュール・リー 2012   勝沼醸造(株)

勝沼町内のいくつかの畑のぶどうを、それぞれ畑ごとに醸造し、9月後半〜

翌年4月頃までシュール・リー製法でオリとともに寝かせておく。時々バトナージュ(櫂かいと呼ばれる棒でオリとワインをかき混ぜて、酵母の旨味成分をワインに移行させる作業)を行う。シュール・リーが終わると、各畑ごとのワインをブレンド(アッサンブラージュという)する。この際社員が一堂に会し、テイスティングしながら話し合ってブレンドの比率を決めている。

この会を社内では「アッサンブラージユの会」と呼び、6年前からソムリエの田崎真也さんの指導をいただきながら実施しているそうです。

・輝きのあるややグリーンがかった淡目のレモンイエロー。レモン、みかん、白いお花、ミネラル、酵母などの香り。ソフトな口当たり。豊かな果実味とすっきりとした酸、後半からの軽い苦みのバランスがとれている。

スマートなタイプの辛口白ワインで幅広いお料理に合いそうです。造り手のご苦労話を聞いた後のテイスティングは、ちょっと身が引き締まる思いがします。



A 栽培者別甲州ワイン(三森均一) 2012  勝沼醸造(株)

ぶどうが作られる畑のテロワール(気候、地質、風土など)とその要素として栽培者を前面に出したワイン。全12種類のうちの1本で、勝沼町菱山地区、三森均一氏が栽培している畑のぶどうから造られたワインです。以前私は、この三森さんの畑を見せていただいたことがありますが、緩やかな南西向きの斜面に、1本1本の甲州ぶどうの木が、左右対称にきれいに伸び伸びと仕立てられていたのが印象的でした。勝沼醸造では、2004年から栽培者別甲州ワインを造っているそうです。小さいロフトで仕込むので手間がかかるだろうと想像するのですが、同じ甲州種で同じ醸造の仕方をしても、12のテロワールから12の味わいの違うワインが作られて、とても面白い比較ができるワインです。また勝沼醸造さんは、12種類全てのワインが出そろう5月頃、自社経営のレストラン『風』で契約栽培の農家さんが顔を合わせて、「ワイン用ぶどう生産者交流会」を開いているそうです。美味しいお料理と、自分達が育てたぶどうから造られた美味しいワインを飲みながら、「今年のぶどうは・・・」と苦労話を語り合うのは、本当に至福のひとときでしょう


ワイナリーとぶどう生産者が共通の認識を持ち、理想とするワインを造る為に、作業を分担しまた苦労も喜びも共に分かち合いたいとの、勝沼醸造さんの契約農家さんに対する姿勢が、このことを語る安田さんの言葉からも感じられます。                     

・キラキラと輝きの美しい@のワインより少し黄色の濃いワイン。グレープフルーツ、青りんご、黄色いお花、ミネラルの香りがひとつひとつはっきりと出てくる。アタックはしっかり。優しい果実味と引き締まった酸、全体を通して感じる畑からくると思われるミネラル感と、山菜のような旨味のある苦みがこのワインの骨格を作っている。クリスピーな味わいの辛口白ワインです。続いて3番目のワインです。
B 勝沼甲州 樽発酵 2011   勝沼醸造(株)


ぶどうをしぼった果汁を凍らせて造る冷凍果汁仕込みにより、甲州ぶどうの成分を凝縮して、フレンチオークの樽でゆっくりと発酵・熟成させたワイン。
・美しい輝きのあるイエロー。グレープフルーツ、ハッサク、トースト、ナッツ、バニラなど複雑で華やかな香りが立ち上がる。アタックはふくよか。豊かな果実味とそれに溶け込んでいる酸、旨味のある心地よい苦みが、上品な樽の香りに包まれて、味わいに深みを与えている。バランスのとれたボリューム感のある、リッチな味わいの辛口白ワイン。


ここで安田さんから素晴らしいプレゼントがありました。

アルガブランカ イセハラ 2012です。このボトルが見えた途端に、テーブルのあちらこちらから「すごい!」の歓声があがります。



笛吹市伊勢原地区の契約農家さんの甲州ぶどうから造られたワインで、このワインの出現により、香り・味わい・ボリューム感共に従来の甲州種ワインのイメージが大きく変えられました。  
・華やかに立ち上がるソーヴィニヨンブランの香り。レモン、グレープフルーツなどの柑橘系の香り、それから特にパッションフルーツの香りが素晴らしい。
2012年は、飲み込んだ後にホッとする優しい甘みを感じるやや辛口の白ワインです。

この伊勢原の畑のぶどうから、毎年同じ様に柑橘系の香りが強く出るのは、この土地に起因することに気が付いて、畑ごと、地域別、栽培者別のワインを造ろうという考えに至ったそうです。又、2007年ヴィンテージのイセハラを皮切りに海外への輸出が始まり、現在はフランス、イギリスなど北欧や台湾をはじめとする東南アジアへも輸出しているそうです。

素晴らしいワインをいただいた後、本日最後のワインは珍しい品種の赤ワインです。

C 牧丘 小公子 樽貯蔵 2008   勝沼醸造(株)



山梨市牧丘町で、澤登芳氏が、無農薬有機栽培している小公子という品種から造られたワイン。小公子というこの品種は、数種類の山ぶどう(中国、ヒマラヤ、韓国、日本など)を交配してできた品種で、糖度が高く酸もしっ
かりしている。また、ベト病などの病気に強い特性を持ち、色の濃い野性味溢れるワインとなるそうです。早速テイスティング。

・エッジにわずかに紫色の残るガーネット色。中心に黒い色が見える濃厚な色合い。香りのボリュームは大きく、ブルーベリー、カシス、プルーン、梅シソ、すみれ、動物の肉などなど、複雑な香り。              
しっかりした酸と細かくやわらかいタンニンが優しく口中に広がる。少し冷やして、やや大きめのグラスでゆったりと、香りの変化や味わいの変化を楽しみたい。心が癒される味わいのミディアム・フルボディーの赤ワインです。

今回は特に香りに注意して、勝沼醸造さんのワインを、安田さんの解説を聞きながら味わうことができました。特に同じ甲州種でも、テロワールの違い、醸造法の違いによって、香りも味わいもそれぞれの個性が出てくることがわかり、大変勉強になりました。自社畑でいろいろなワイン専用品種も栽培している勝沼醸造さんですが、特に甲州種にこだわり、甲州種のみで食前酒〜食中酒〜食後酒とバラエティーに富んだワインを造りだしています。

安田さんは、これからもなお甲州種の可能性を追求していきたいと言います。特に今まで醸造技術でワインを凝縮してきたのを、更に、栽培方法や土壌の可能性によりぶどうの実そのものを凝縮できるように研究していきたいと熱く語ってくれました。


この外にもワイナリーツアーのお話や、ブランド構成のお話、どこで勝沼醸造さんのワインが買えるかなどなど・・・時間が足りません。
参加者の皆さんの質問を打ち切るような形で終了させていただきました。是非また近いうちに再度のご登場をお願いしたいと思います。



最後に楽しくにぎやかに、安田さんを囲んで撮影会をして、お開きになりました。
安田さん、お忙しい中をご来場いただきまして、本当に有難うございました。

勝沼醸造さんの、また、安田さんのワインにかける情熱は、しっかりと参加者の皆さんに伝わったとおもいます。これからも美味しいワインを、私達に提供してくださることと期待しています。
参加者の皆様も、残暑の厳しいなかを本当に有難うございました。次回もどうぞお楽しみに。    篠原