かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第62回 2014.5.4
参加者 県外1名 県内11名 計12名
講師  篠原シニアワインエキスパート


アシスタント
深澤さん、尚江さん

ゲスト
(株) 東夢(とうむ) 社長 高野 英一様



ワインリスト
1 もてなし 甲州 2013 (株)東夢
2 樽熟成 かなめ マスカットベーリーA 2012   〃
3 樽熟成 勝沼ビジュノワール 2012    〃
4 葡蘭酎(ぶらんちゅう)(白)   〃



セミナーの内容
1 今回のテーマ「夢は大きく・・・夢ワイン!!」
2 本日のワインについて
3 本日のゲスト (株)東夢 社長 高野英一様のお話



レポート
雲ひとつ無い青空、ほほをなでるそよ風もひんやりしていて、とても気持ちの良い五月晴れの朝市です。心配していたぶどうの発芽も順調で、今は、展葉(葉が開く)から蕾へと、力強く生長しています。
我がかつぬま朝市ワインセミナーも、ゴールデンウイーク中にもかかわらず、熱心なお客様が来てくださいました。本当に有難いです。


早速スタートです。
今回のテーマは、「夢は大きく・・・夢ワイン」と題して、(株)東夢の社長 高野英一様をお迎えしました。


このテーマに決めた時から、もう私篠原の心は、ワクワクどきどき。参加者の皆さんに少しでも多く高野さんのお話を聞いてもらいたいと思い、あいさつもそこそこに、ゲストの高野さんにバトンタッチしました。

今から12年前の2002年のこと、団塊の世代の企業戦士として長い間勤めた会社を退職した高野さんは、これからの人生をロスタイムの人生と名付け、生まれ育った土地であるここ勝沼に、ほんの僅かでも良いから何か社会貢献したいと思い立ちました。

勝沼の鳥居平といえば、全国屈指のワイン産地である勝沼の中でも、特にワイン用ぶどうの栽培地として有名な場所です。こどもの頃からの思い出のあるこの場所が、農家の高齢化などで荒廃した姿をさらしているのに心を痛め、畑の所有者に了解を得て草刈りをすることにしました。

プチボランティアのつもりの草刈り・・・。これがロスタイム人生の夢のはじまりでした。草刈がま1本持って、一人で始めた草刈り。それは想像以上に手ごわいものでした。そこは平らな土地ではなく、山の中腹の傾斜地で、それも雪害で倒壊してから10年以上も放棄されていたぶどう畑です。高野さんが手こずっているのを聞きつけて、会社時代の先輩や仲間達が次第に集まってきてくれました。

そうすると、今度は途中でやめたくてもやめるわけにはいかなくなってしまいました。草は1回刈っても又すぐに生えてくるもの。それならば、いっそのこと、ここにワイン用のぶどうの木を植えよう。

生食用ぶどうは手入れが難しいが、ワイン用なら少々形が悪くても大丈夫だろう。そんな考えからワイン用ぶどうの木を植えることになりました。何の品種にしようか?そこはもと第一線で働いてきた企業戦士。

ヨーロッパのワイン専用品種で、垣根仕立てにと、夢は大きく広がります。ひょっとしてフランスのシャトーでも頭に浮かんでいたのでしょうか。

しかし、現実は過酷でした。一夜の雨で、畑が崩れてしまったり、台風に見舞われ、ぶどうの木が倒れてしまったり。そんな時に仲間の励ましの言葉に支えられ、また技術の指導をしてくれる人に助けられたりしながら何とか乗り越えて、ようやく4年目に初めての収穫を迎えることが出来ました。その喜びは何にも代えがたいものだったことでしょう。

たとえ収益は上がらなくとも、この勝沼の景観を守っていくことが出来れば満足と思っていました。しかし、年を重ねるごとに、自分達のロスタイムにも限りがあることに気づき自分達だけでこの活動を終わらせて良いものだろうかと考えた時に、ひとつの壁にぶつかった。


収益を上げなければ・・・。ぶどうに付加価値を付けてワインにしよう。そのワインを販売しよう。夢は次から次へと広がっていきます。 
そうして、ついに2007年には、とうとう本当にワイナリーを建設してしまったのです。「東夢ワイナリー」の誕生です。

ここで一息つきましょう。
現在東夢ワイナリーさんでは、10種類以上のワインを製造していますが、今回はそのうち4種類をテイスティングしました。
高野さん達が造ったワイン、大切に飲ませていただきましょう。

1番目のワインです。
・もてなし 甲州 2013  (株)東夢
勝沼を訪れた方におもてなしをするには、何と言っても甲州種ワインでしょうということで、「もてなし」と名付けたそうです。

鳥居平地区の甲州をフレンチオークの樽で熟成。特に樽の香りをどの程度つけるか苦心したそうです。

透明に近い淡いレモンイエロー。グレープフルーツなど柑橘の香りや白いお花、ミネラル、僅かにバニラの香り。すっきりとした口当たり。たっぷりの果実味に酸が溶け込んでいる。


中盤から軽い苦みとミネラルを感じる。後半に溶け込んでいる酸が顔を出し、このワインをひきしめている。

アフターにほのかに樽の香りが上品に出てくる、シンプルでさわやかな辛口白ワインです。




2番目のワインです。
・樽熟成 かなめ マスカットベーリーA 2012  (株)東夢
エチケット(ラベル)のおじさん達の笑顔が可愛らしい。勝沼の赤ワインの要(かなめ)は、やはりマスカットベーリーAと言うことでこの名前になったそうです。

マスカットベーリーAのワインを、1年間古樽(5空樽)で熟成して円熟味を出したワイン。

エッジに僅かに紫の見える淡いルビー色。粘性あり。いちご、ブルーベリー、綿菓子の様なぶどう由来の甘さを連想させる香り。アタックは優しい。

たっぷりの果実味におとなしい酸、こなれている細かいタンニンのバランスが良い。口に含んだ際のなめらかさが印象的。

全体的になめらかでスマートでありながら、コク(旨味)を感じるきれいな味わいのミディアムボディーの赤ワイン。




3番目のワインです。
・樽熟成 勝沼ビジュノワール 2012  (株)東夢
勝沼の契約農家のぶどうを使用。

ビジュノワールというぶどう品種は、まだあまり聞きなれない品種ですが、山梨県果樹試験場で育成された日本固有の改良品種です。8年前の2006年に登録されました。

「甲州三尺」に「メルロー」を掛け合わせてできた「ブドウ山梨27号」という品種に欧州品種の「マルベック」を交雑して得られた新しい品種です。その特徴は、「メルロー」や「カベルネソーヴィニヨン」に比較して

@ 糖度は高めで、酸度は低め。
A 収穫時期が早いので、秋雨や台風の影響を受けにくい。
B 醸造したワインは、メルローやカベルネソーヴィニヨンに比較して、酸が
まろやかで、タンニンが多い。また赤色が濃くボディーもある。などです。
ビジュノワールの木を植えて4年目からワインを造りましたが、当初は顔をしかめる位タンニンが強かったそうです。木の成長と共に、又、樽熟成により、タンニンがまろやかになってきたそうです。ビジュノワールのワインを造って、ワインの味とぶどうの木の年齢とに大きな関わりがあると感じたそうです。

テイスティングコメントです。
濃い色合い。エッジに紫が見えるが、いくらかオレンジ色が入りはじめたガーネット色。中心部が黒い。ブルーベリー、ブラックベリー、カシス、甘草、スパイス、コーヒー、ナッツの香ばしさなど複雑な香り。アタックはやや強め。完熟した果実の甘みと控えめに溶け込んでいる酸、しっかりしたタンニンによって骨格がつくられている。歯ぐきに感じるタンニンに、まだ若さが感じられるので、これから2・3年後が楽しみ。全体的に複雑性があり、ボディーがしっかりした中にも優しい味わいのあるミディアム・フルボディーの赤ワインです。


ここで赤ワイン2種類の比較です。


品種・色の違いがはっきりと表れています。色の淡い方がマスカットベーリーAで濃い方がビジュノワールです。味わいもビジュノワールを飲んだ後にマスカットベーリーAを飲むと複雑な味わいとシンプルな味わいの違いを感じることができます。続いて最後4番目のワインです。


・葡蘭酎(ぶらんちゅう)(白)  (株)東夢
アルコール度数25度、ほぼブランデーと言いたいワインです。このタイプのワインは、このセミナー初の登場です。甲州種100%のスティルワインと、同じ甲州種ワインを蒸留して造ったホワイトブランデーを15対85の比率でブレンドした酒精強化ワイン。(フォーティーファイドワインとも言います)ぶどうの焼酎の意味で、「葡蘭酎」と命名。ぶどうの絞りかすは使用していない。

無色透明、輝きあり。ディスクは厚く、粘性は大きい。香りのボリュームは大。

まず、鼻を刺激する揮発性の香り、白桃、さつま芋など芋の甘さを連想させる香り、蜜、ミントなどのハーブの香りが感じられる。

アタックは強い。最初に甘みを感じ、その後すぐにアルコールの強さからくる粘性(ねっとり感)を感じる。酸は控えめ。後半からの軽い苦みによって口中がさわやかになる。余韻は長い。全体的にアルコールの強さから甘みを感じるが、甘口では無く繊細で優しい。どちらかと言えば、シンプルでさわやかな味わいの辛口酒精強化ワインです。あちらこちらから「いいねー」「うまい!」の声が聞こえます。どの様な飲み方が良いかと高野さんにお聞きしますと、「やっぱりロックだね」との答えです。可愛らしい300ml入りのボトルと、お徳用サイズの720mlボトル、またアルコール度数20度の葡蘭酎(赤)もあります。




さて、ワインがお口に入ったところで高野さんのお話にもどります。

高野さんのところには、なぜか大勢の人が集まってきます。ワイナリーを訪れる方には快くもてなしてくれる高野さんのお人柄でしょうか。

平日は会社勤め、休日にぶどうの栽培をしに来る人や、退職してからぶどう栽培やワイン造りを志している人。ワイン造りに目覚めて、定年前に退職して指導を受けに来る人など様々です。


高野さんの指導を受けてワイナリーを立ち上げた県外からの研修生や、ワイナリーを建設中の人、販売免許を取得した人など、高野さんを頼って来て指導を受け、それぞれの夢に向かって羽ばたいていく人達です。


ぶどうの栽培やワイン造りを体験したい人達の心のよりどころとして、高野さんの存在はとても大きな意味を持っていると思います。(株)東夢から巣立って行った人達が、それぞれに自分のぶどう畑やワイナリーを持ち、また高野さんにしていただいた様に自分の所で研修生を育てていく。日本のワイン文化にきっと新しい風が吹くことでしょう。


本日のワインセミナー参加者の中にも、自分が栽培しているぶどうで、マイワインを造りたい夢を持っている方がいました。
「今日の高野さんとの出会いは、夢のようです。最高のワインセミナーでした。」と喜んでくれました。
ロスタイムのプチボランティアの草刈りから、ワイナリーを建設し、さらに後継者育成へと、次々と夢を実現させている高野さんに心から敬意を表し、拍手を送りたいと思います。益々のご活躍をお祈りしています。

高野さんのお話を聞いて、参加者の皆さんそれぞれに、きっと自分にも何か出来るのではないかと、夢と希望と、勇気を持ってくだされば、これ以上嬉しいことはありません。
高野社長さん、本当に有難うございました。1回だけでは勿体ないので、また再度のご出演をお待ちしております。

セミナー終了後も、ずーっとこのお話の余韻が私の心に残り、五月の風の心地良さと共に、きっと忘れられないセミナーとなるでしょう。



次回もお楽しみに!!   篠原