かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第63回     2014.6.1
 

●参加者  県外3名  県内9名  計12名

●講師  篠原シニアワインエキスパート



●アシスタント  深澤さん、尚江さん

●ゲスト  蒼龍葡萄酒(株) 常務 鈴木大三(ひろみ)様



●ワインリスト
1 契約ワイン2013 甲州一升瓶     蒼龍葡萄酒(株)
2 シトラスセント 甲州 2013  〃
3 甲州樽発酵 2012(甲州市認証ワイン)   〃
4 ソーリュー・プレミアム メルロ&カベルネ 2011  〃



●セミナーの内容
1 今回のテーマ「伝統を受け継ぐ・・・古いものと新しいもの」
2 本日のワインについて
3 本日のゲスト 蒼龍葡萄酒(株)鈴木大三様のお話



●レポート
緑の美しいぶどう畑のあちらこちらからかっこうの鳴き声が聞こえてくるようになりました。初夏の陽射しをたっぷり浴びて、畑の甲州ぶどうも10p程の房に成長し、エビのようにそっくり返っています。もう開花も間もないことでしょう。
6月の朝市は本当に大勢のお客様でにぎわっています。我がワインセミナーも、真夏日の予報にも関わらずワイン好きの大勢の方がやって来てくれました。早速スタートです。


今回のテーマは、「伝統を受け継ぐ・・・古いものと新しいもの」と題して、蒼龍葡萄酒(株)の鈴木大三(ひろみ)常務をお迎えしました。蒼龍さんは、社長さん(今日のゲストのお父様)に過去2回ご出演いただいていますが、常務さんの大三さんは初めてのご出演です。

蒼龍葡萄酒(株)は1899年(今から115年前)の創業です。勝沼のふたりの青年土屋助次郎と高野正誠がフランスでワイン造りの修業をして帰国したのが1879年(今から135年前)のことですから、勝沼のワイナリーの中でもいかに老舗かということがわかります。

本日のゲストの鈴木大三さんは、蒼龍葡萄酒(株)の4代目(予定)に当たる方です。
130余年の伝統ある甲州種のワインは、ここ10数年で飛躍的に品質が向上したと言われています。それは勿論ワイナリーさんの努力であったり、技術の進歩であったり、原料のぶどうを選別したり、また我々消費者の口が肥えてきたり、といろいろな要因があると思います。今日は、この伝統ある勝沼のワイン造りを引き継ぐ若手の造り手から、時代の変化と共に進化してきた甲州種ワイン3種類のお話を聞きワインを味わいます。

昔ながらの一升瓶の甲州(ノーマルスタイル)と新しいスタイルの香りを生かした甲州、・本格的な樽を使ってグレードアップした甲州の3種類を比較テイスティングしたいと思います。最後に赤ワイン好きの方の為に、ヨーロッパ品種で造った赤ワインを味わっていただきます。

ゲストの鈴木さんの登場です。



フレッシュでナイスガイの鈴木さんのお話と、目の前に置かれた一升瓶ワインに皆さんの期待が高まります。自己紹介のあと最初のワインを味わいます。

・契約ワイン 2013 甲州一升瓶  蒼龍葡萄酒(株)

地元の農家さん約80軒からぶどうを委託され醸造しているワインです。一升瓶には表ラベルは無く、醸造元の裏ラベルがあるのみです。地元の農家さんは、真夏の暑い畑での農作業を終えて、夜ほっと一息つきながら晩酌にこの一升瓶ワインを楽しむ。その時疲れをいやしてくれるのは、パンチの利いた昔ながらの造りのワインが好まれるそうです。

蒼龍葡萄酒の一般的なワインは、フリーラン果汁使用がほとんどですが、このワインに関しては、プレスを用いてぶどうの果皮から苦みやえぐみも出して、ワインに厚みをつけているそうです。
テイスティングです。

わずかに黄色の見えるほぼ透明に近い色合い。スワリングすると柑橘系の香りが立ち上がってきます。やさしい口当たり。たっぷりの果実味としっかりとした酸、後半にかけて甲州特有の苦みあり。えぐみは感じられない。それぞれの要素が出過ぎない範囲で存在感を示し、軽めの濾過によってワインに厚みを出している。
季節の山菜(タラの芽やコシアブラ、ワラビやフキ)、タケノコ、地元の菜や根菜など日常のおかずで晩酌に飲みたいワイン。

「グラスを回すと、香りが沢山出てくる。」とか、「いいじゃん!」など今おはやりの甲州弁も交えて、つぶやきが聞こえます。


2番目のワインです。
・シトラスセント 甲州2013  蒼龍葡萄酒(株)


過去2回国産ワインコンクールで金賞を受賞した、蒼龍葡萄酒を代表するワイン。香りを生かした新しい発想のワインです。鈴木さんのお話です。

「シトラスセント」とは柑橘系の香りのことです。甲州ぶどうの中にある3MHという香り(グレープフルーツやパッションフルーツの香り)の元を、いかにして増やして引き出すかについて、
・9月中〜下旬の通常より早い時期にぶどうを収穫。
・栽培時にボルドー液を使わない。
・発酵時に3MHの出やすい酵母を使う。
このほかにも温度管理など種々の条件があるそうです。

テイスティングです。
淡い緑がかったレモンイエロー。白いお花やレモン、グレープフルーツなどの柑橘系の香り、青りんごのような香りが華やかに立ち上がります。
アタックはスマート。フレッシュな果実味、さわやかな酸とミネラル。最後にみかんの皮を噛んだ時のようなスーっとする心地よい苦みを感じる。全体的に酸によってこのワインが引き締まり1本筋が通った感じのやや辛口の白ワイン。

3番目のワインです。

・甲州樽発酵 2012(甲州市認証ワイン) 蒼龍葡萄酒(株)
このワインは、造り始めて4回目のワインで、ほとんど自社の売店とぶどうの丘のショップのみにて販売しているそうです。
年ごとに毎回醸造方法を変えているチャレンジワイン。勝沼町祝4区のぶどうのみを使用。すこし長くシュールリー状態で樽熟成すると、酸を確保してしっかりした骨格がつくられる。樽の香りは、焙煎とかコーヒーの香りを目指している。

このチャレンジワインは、出来ることなら3年分位を垂直テイスティング(時系列でテイスティング)してみたいですね。
テイスティングです。

先の2本の甲州よりやや濃いめのレモンイエロー。アタックはなめらか。たっぷりの果実味と溶け込んでいる酸。白いお花、柑橘系の果実、白桃など完熟した果実の香り。中盤からの軽い苦みとミネラル感。最後に上品なタルの香り。バランスのとれたふくよかな味わいの辛口白ワインです。

ここで3種類の甲州の比較です。
味わいを一言で表現すると、
契約ワイン・・・やわらかい
シトラスセント・・・きりり
樽発酵・・・ふくよか

こんな感じでしょうか。とても楽しい飲み比べです。皆さんもお隣同士で感想を述べ合っています。
樽発酵のワインが出たところで、鈴木さんより樽についてのお話がありました。
樽の木の種類について、産地、焼き加減、樽の種類によるワインの味わいの違いなど詳しく教えていただきました。

又、このワインは甲州市の認証ワインです。ボトルに銀色の認証ラベルが貼られています。甲州市では、2010年から「甲州市原産地呼称ワイン認証制度」によるワインの認証をしています。この制度は、ワインの原料となるぶどうの栽培地を明らかにすることと、甲州市内にある自社工場で醸造されることが決められています。

栽培段階から製品として出荷するまでに、厳しい審査委員の審査をパスしたワインのみ認証されます。ゲストの鈴木さんも審査委員をされていたそうです。テイスティングワインの甲州樽発酵は銀色のラベルで、甲州市産原料のみ使用です。そのほかに金色のラベルがありますが、こちらは山梨県産原料使用になります。ワイナリーはもちろんのこと、甲州市が自信をもっておすすめする認証ワインを、私達消費者は積極的に選んで、この制度をしっかりと支えていきたいですね。



いよいよ最後のワインです。
・ソーリュー・プレミアム メルロ&カベルネ 2011   蒼龍葡萄酒(株)
ヨーロッパのワイン専用品種メルロを主体にカベルネ・ソーヴィニヨンとプチ・ヴェルドをブレンドした本格的な赤ワインです。

ここでハプニング!!ゲストの鈴木さんが是非皆さんに味わっていただきたいと、まだ店頭に出ていない2012年のワインを差し入れしてくださいました。
おかげさまで急きょソーリュー・プレミアム メルロ&カベルネの2011と2012の垂直テイスティングとなりました。


2011年 少しオレンジ色が入りはじめたルビー色。中心部がやや濃く黒い色合い。粘性あり。赤い果実のジャムのような少し甘さを連想させる香り。
ブルーベリー、カシス、杉、スパイス、ビターチョコレート、ロースト香などの複雑な香り。アタックはなめらか。豊かな果実味としっかりした酸。それを包み込む柔らかくきめの細かいタンニン。後味にロースト香と梅のような酸味が残り口中をさわやかにしてくれる。あまり重くない味わいだが、余韻がきれいに続く。ひと口飲み終わったら、さらにこのワインを飲みたい気分にしてくれる、ミディアムボディの赤ワインです。
ブレンド比率は、メルロ60%、カベルネ・ソーヴィニヨン33%、プチ・ヴェルド7%です。

2012年  エッジに紫色の見える落ち着いた色合いのルビー色。中心部がやや濃く黒い色合い。赤い果実やブルーベリーのジャムなどを連想させる香り。カシス、甘草、スパイス、バニラ、チョコレートなど複雑な香り。
アタックはしっかり。おだやかな酸味と少し若々しいがきめの細かい優しいタンニン。余韻がきれい。アフターにロースト香やチョコレートの香りが戻ってくる。
全体的に軽やかなバランスのとれたミディアムボディの赤ワインです。1・2年後の変化もみてみたいワインです。
ブレンド比率は、メルロ65%、カベルネ・ソーヴィニヨン30%、プチ・ヴェルド5%です。プチ・ヴェルドのブレンド比率が重要で、全体の味わいに大きく影響するそうです。

思いがけない差し入れに皆さん大喜びで、この後質問がポンポンと飛出しました。
・契約ワインについて
・圧縮コルクと天然コルクの違いについて

・樽発酵と樽熟成の樽香の違いについてなどなど。
ゲストの鈴木さんも参加者の皆さんとすっかりうち溶けて、このセミナーを楽しんでくださっているようです。
残念ながらあっと言う間に時間が経過してしまいました。
「130余年の伝統ある甲州種を大切に受け継ぎながら、昔ながらの味わいのワインと新しいスタイルのワインの両方ともやっていきたい。ぶどうを提供してくれる農家さんを大事にしていきたい。ワインは畑から造られるものという考え方で、高いレベルで特徴あるワインを造っていきたい。」と、目をキラキラさせながら熱く語ってくれる若き後継者にエールを送りたいと思います。



鈴木さん本日はお忙しいところを、本当に有難うございました。とっても楽しかったです。




後継者シリーズ次回もおたのしみに! 篠原