かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第64回 2014.7.6
参加者  県外6名  県内12名  計18名
講師  篠原シニアワインエキスパート
アシスタント
深澤さん、尚江さん
ゲスト
塩山洋酒醸造(株) 専務取締役 萩原弘基(こうき) 様


ワインリスト
1 重川 甲州 2013    塩山洋酒醸造(株)
2 SALZ BERG Koshu (ザルツ ベルク 甲州)2013  〃
3 雅(みやび) 2013     〃    
4 甲州 おりがらみ 2013    〃    



セミナーの内容
1 今回のテーマ「日本人に飲んでもらいたい『和』にこだわったワイン」
2 本日のワインについて



3 本日のゲスト 塩山洋酒醸造(株)専務取締役 萩原弘基様のお話
 
 
 レポート
今年の梅雨は雨と晴れが交互にやってくるようなお天気で、気温も真夏日に届く日は少な目です。ワイン用ぶどうに酸がしっかり入ってくれると嬉しいです。我が家の甲州ぶどうも一粒の大きさが1.5センチ位にふくらみ、粒の付き方もまずまずですが、房長が長くなってしまったので、房尻を切る作業を終えたところです。



7月の朝市は幸いにも梅雨の晴れ間に恵まれ、早くから大勢のお客様がみえています。
我がワインセミナーも、予約の方以外に当日参加者が何人も来てくださって満席となりました。今日から運行が始まったシャトル君(勝沼ぶどう郷駅〜朝市会場への直行便)のおかげで、久々に定刻にスタートです。



早速本日のゲストをお迎えしました。今朝のさわやかな空気にぴったりの好青年、塩山洋酒醸造(株)専務取締役で醸造責任者の萩原弘基(はぎわら こうき)様です。


ゲストの登場で会場が一瞬緊張します。自己紹介です。大学で醸造学科を卒業後、なぜかJAへ就職。5年間のJAの仕事のなかで地場産業の大切さを感じていたところ、知人の助言が契機となって、家業であるワイナリーを継ぐことを決意したそうです。2008年今から6年前のことです。家業を継ぐからにはしっかりとしたコンセプトを持ってワインを造りたい。自社の規模、産地としての状況、自社畑のテロワール(気候、土壌、地形など畑をとりまく環境のこと)等を考えて、『日本の固有の品種にこだわったワイン造り』をコンセプトとした。

その理由は、
・造り手が日本人である。
・日本人に飲んで貰いたいワインを造りたい。
・甲州以外の日本のぶどう品種のワインも世界に広めたい。(マスカットベーリーA、ベリーアリカント、ブラッククイーン、アルモノワールなどなど)だそうです。


お話を聞きながら早速テイスティングです。
本日のテーマ「日本人に飲んで貰いたい『和』にこだわったワイン」を念頭に置きながら、
甲州種4種類の飲み比べです。


1番目のワインです。
重川 甲州 2013  塩山洋酒醸造(株)

甲州市塩山地区を流れる重川沿いにある自社畑の甲州100%のワイン。この畑のぶどうは、他よりも成分値が高い(特にアミノ酸)ので、単一畑のみで醸造した。2013年は10月中旬の収穫(遅摘み)で、フリーラン果汁のみ使用。(贅沢ですねー!のツイートあり)発酵終了後は、バトナージュ(熟成中のワインを撹拌すること)もせず、ステンレスタンクで約6か月間シュールリー状態において、すべてを酵母にまかせる造りとした。 テイスティングです。外観はクリーン。わずかにグリーンの残る透明に近いレモンイエロー。桜の花、りんご、洋梨、若い白桃、バナナの香りが華やかに立ち上がります。なめらかでやわらかい口当たり。たっぷりの果実味と溶け込んでいる酸。中盤からの軽い苦みがアクセントになっている。完熟果実の甘みと粘性の強さによってボリューム感のあるしっかりとした味わいの辛口白ワインです。         

2番目のワインです。
SALZ BERG Koshu (ザルツ ベルク 甲州)2013 塩山洋酒醸造(株)
このブラック調のボトルを手にした時、まずそのエチケット(ラベル)に目を見張ります。2センチ位の帯状のテープのようなエチケット。SALZ BERG Koshuとアルファベットで書かれています。和を意識しているのに、洋風のエチケットとアルファベットのワイン名とは、ハテナ?答えは、甲州種を使用して、ヨーロッパの香りや味わいを出したいということだそうです。オーストリアのザルツブルクに似ているこのワイン名は、ザルツベルクといいます。ドイツ語でSALZ は(塩)、BERGは(山)を意味し、まさに塩山ですね。ゲストの祖父はピアノの教師をしていて、モーツァルトが大好きだそうです。おじい様の弾かれるピアノのモーツァルト(モーツァルトの生誕地はザルツブルク)にちなんでこのワイン名にしたそうです。
甲州100%、フリーラン果汁のみ使用。ステンレス発酵させた甲州種と、別の酵母で発酵させ樽熟成した甲州種をブレンドしたワイン。輝きのある淡いレモンイエロー。黄色いお花、グレープフルーツやはっさくなどの柑橘系の香り。黄色い桃、白コショウ、バニラ、ミネラルなどやや複雑な香り。アタックは豊潤。まだ少しフレッシュさを感じる果実味、優しい酸、甲州特有の心地よい軽い苦みが一体化してバランスがとれている。最後に上品な樽の香りと樽からくるなめらかさを感じる。ボリューム感のある豊かな味わいの辛口白ワイン。このワインはまだフレッシュな感じがありますが、10月〜11月頃には熟成感が出てきて、柑橘香がトロピカルな香りに変わりまた違った味わいが楽しめるそうです。

3番目のワインです。
・雅(みやび) 2013   塩山洋酒醸造(株)


甲州市産の甲州種使用。昔ながらのシンプルな造り方。2012年までは解放タンク(上が開いているので空気に触れる)を使用していたが、2013年からは密閉タンクに変え、空気接触を最小限に抑えたそうです。僅かに黄色が見える淡い色合い。1番目2番目の甲州とは全く異なる落ち着いた香り。いよかん、熟した白桃、酵母、パン、ビスケット、少し蜜の様な香りがするが、どちらかといえばシンプルな香り。アタックはやや強め。たっぷりの果実味とそれに溶け込んでいる酸。梗や果皮などを連想させる軽い苦み。ぶどうの果実をすべて取り込んだようなしっかりした厚みのある、少しクラシカルな味わいのやや辛口の白ワインです。

ここで萩原さんから、香りについて深いお話を聞くことができました。県のワインセンターで研修経験のある彼は、昔ながらの甲州によく表れるフェノレ(バンドエイドとか病院の消毒のような薬品の香り)に詳しく、なぜ表れるのか、またそれを防ぐ方法などを教えていただきました。

4番目のワインです。
・甲州おりがらみ 2013  塩山洋酒醸造(株)

このワインは新酒の商品なので、すでに完売済ですが、何かの為にととっておいた最後のワインをこのセミナーに提供していただきました。グラスを見ると明らかに今までの3本とは外観が違います。くもりガラスのグラスにワインが注がれている様な感じです。
 ボトルの中でシュールリー状態になっているワインをオリとからませて飲む、にごりワインです。「新酒をなぜにごりにするのか?」の問いに、「フレッシュワインの酵母の香りを
味わってもらいたいからです」と答えが返ってきました。淡いイエロー。僅かににごりあり。りんご、洋梨、熟した白桃、酵母、イーストの香り。すなおに入る優しいアタック。若々しいが甘さの残る果実味、さわやかな酸。すっきりとしたシンプルな味わいですが、なぜかホツとする中口の白ワイン。しっかり冷やして飲みたい。秋のはじめ、ワイン屋さんの店頭でこのワインに出会うと、今年もまた会えたねと嬉しい気持ちになります。

4種類の甲州のそれぞれのテイスティングが終わりました。皆さんのグラスにはもう空になったものが目立ちます。それにもう一度ワインを注いで4種類の比較です。全員にグラスが4つずつ並んだところは壮観です。当セミナーではめったに見られない光景です。同じ甲州種から造られたワインですが、外観、香り、味わい共にそれぞれが個性を発揮しています。


色の濃さ・・全体的に淡めですが、樽使用のSALZ BERGが一番濃い色合いです。
透明感 ・・「おりがらみ」を除いた3種類とも輝きのある透明感のあるワインですが、その中でも1番目の重川がクリーン感バツグンで、クリスタルの輝きを感じさせます。



萩原さんのお話です。

「重川は、果汁の段階で不純物を沈殿させる作業(デブルバージュという)を丁寧に行ったので、このようにクリーンになりました。」もともと成分値の高いぶどうなので、このようにクリーンにしても力のあるワインが出来るのだと思いました。
香り・・同じ甲州種ワインでも醸造の方法により色々な香りを感じることができました。若々しい甲州本来の香り、バニラのような樽の香り、昔懐かしい熟成したこうばしい香り、酵母の香りなど面白い比較です。
味わい・・果実味と酸味、甲州特有の旨味のある苦みのバランスをみます。また辛口、やや辛口、中口といった微妙な味わいの違いも感じることができました。


この他にも今日は萩原さんは、珍しいものを持参してくれました。ワインの醸造段階で出てくる『酒石』です。

ワインが沁み込んでいるので少し薄茶色をしていますが、元々はキラキラ輝く透明の水晶のかけらの様な感じです。ワインの宝石などとも言われるゆえんです。手で触れると塩の様な手触りです。中にはほんの少し口に入れて食感を確かめた方もいましたが美味しいものではありません。もちろん無害です。
ぶどうの成分に含まれる酸(酒石酸)とカリウムが結合して結晶となったもので、ぶどうのジャムをつくる時にも出てきたりします。ワインを冷やすと出やすいようです。

参加者の皆さんからの質問を受けながら、萩原さんのお話は底を尽きません。色々なお話をもっともっとお聞きしたいところですが、残念ながら時間が来てしまいました。
最後に萩原さんから皆さんに質問です。


「今日テイスティングしたワインの中で、ご自分が好きだと思うワイン一つに手を上げてください。」 結果は重川が6人、SALZ BERGが4人、雅が5人、おりがらみが2人ときれいに分かれました。ほぼ均等に好きなワインが分かれたということは、やはり参加者の皆さんのお口に合うワインであることと、これらのワインに造り手のセンスの良さが表れていることではないかと感じました。


「ワインを造りはじめてまだ6年です。」と謙虚に話す萩原さん。「先代から受け継がれたものもあると思いますが、あなたが責任者になってから新しく始めたことを教えてください。」の問いに「一升瓶ワイン以外の720mlのワインはすべて自分が始めたもの
です。」「でも、2013年の国産ワインコンクールでは、『重川 甲州2012』と『SALZ BERGKoshu2012』がダブルで銀賞を受賞されましたが?」。「有難いことに、5年目に造ったワインです。」と笑顔で話す萩原さんに「本当に?」と聞き返してしまいました。   

これからの自分の目標は、今年から新しくデラウエアのスパークリングワインを(ガス充填式)造り、来年からは、甲州で瓶内二次発酵のスパークリングワインを造りたいと語ってくれました。一歩一歩着実に、決して気負わずに(とてもクールです)自分の目標に向かってチャレンジしていく方ではないかと思いました。

萩原さん、本日はお忙しい中をご出演本当にありがとうございました。萩原さんの熱いトークと、参加者の皆さんの熱気とで、セミナーのテントから湯気が上がったのではないかと思う位盛り上がったワインセミナーでした。




次回も後継者シリーズ続きます。おたのしみに! 篠原