かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第65回 2014.8.3

梅雨あけ(7月22日)と同時に猛暑の夏がやってきました。
我が家の甲州ぶどうも房のあちらこちらに色が付いてきて、いよいよヴェレゾン(着色)期に入りました。

8月のワインセミナーは、朝の内は曇りで、このまま涼しければと願ったのですが、開催時刻が近づいてくるに従い快晴に。皆さんの背中に太陽の陽射しが当たらない
ようにと何回かテントの位置を移動して、皆さんをお迎えしました。

早速セミナーオープンです。


 参加者  県外4名  県内9名  計13名

講師  篠原シニアワインエキスパート


アシスタント  深澤さん、尚江さん




ゲスト
(株)くらむぼんワイン  社長 野沢たかひこ 様


 
 


ワインリスト
1 ソル ルケト 甲州 2012(EU輸出バージョン)(株)くらむぼんワイン
2 ソル オリエンス 甲州樽発酵2012 (天然酵母)    〃 
3 ベル カント マスカットベイリーA 樽貯蔵 2013   〃
4 あじろん スパークリングワイン(甘口) 2012     〃




セミナーの内容
1 本日のテーマ「自然な栽培から自然な味わいのワインを」
2 本日のワインについて
3 テイスティングの方法
3 本日のゲスト (株)くらむぼんワイン 社長 野沢たかひこ様のお話




レポート


本日のテーマは「自然な栽培から自然な味わいのワインを」ということで、自然栽培
についてのお話とそこから造られるワインを味わいたいと思います。これからのワイン造りの一つの方向性として、非常に興味のあるところです。

まず最初に、ワインをよりおいしく味わうために、テイスティングの方法の練習をしました。ワインは自分の好きなように飲むのが一番楽しいと思いますが、それに一寸したスパイスとして知識が加わると、より楽しさが倍増します。ほんの一瞬気持ちを集中して、ワインを『見て、嗅いで、味わう』の3つのステップを意識して飲むと練習になると思います。その後はいつもの様に、ご自由に楽しんでください。


ワインがひと口お口に入るともう、「早く飲みたい」感が皆さんから伝わってきますがここでゲストの登場です。

本日のゲストは、(株)くらむぼんワイン社長の野沢たかひこ様です。若くてもの静かで知的な香りの漂う方です。ワインは造り手の性格が反映されるといいますが、さて今日のワインはどんな感じでしようか。



自己紹介です。

(株)くらむぼんワイン(2014年1月1日に(株)山梨ワインから社名変更)さんは、1913年(大正2年)の創業で、今年で101年目になります。ゲストの野沢たかひこさんは、4代目の当主で、家業に就いて15年目になるそうです。

在学中にホームステイした、フランスのプロヴァンス地方での家庭料理とワインを、ホームステイ先の家族や友人達と楽しく食べたり飲んだりしたことに非常に感動して、このような美味しいワインを造ってみたいとワイン造りに目覚めたそうです。本場フランスでワインの勉強をしたいという思いにかられ、1997年に渡仏し、ブルゴーニュの醸造学校で醸造の基本を学んで、帰国してからは、実家のワイナリーで早速実践に移しました。
当時は甘口ワインが中心だった甲州を辛口に変え、また輸入原料を改善したいと思い、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネを植えて自社栽培としました。設備も新しい機械を備えたり、酸化を防いだり低温発酵が出来るようにも整えました。
自分がプロヴァンスで味わったあのワインに向かって、日々頑張っているそうです。

社名についてお話いただきました。
『くらむぼん』・・・どこかで聞いたような懐かしい言葉ですね。宮沢賢治の書いた『やまなし』という童話の中で、二匹のカニの兄弟が話している言葉の中に出てきます。何の事なのかわかりません。この童話の最後の方で、二匹のカニのいる所に、上の方から何か黒い大きなものが落ちてきました。それはよく熟した、いい匂いのする『やまなし』だよとお父さんのカニが教えてくれました。この『やまなし』は今すぐに食べないで、あと2日ばかり待つと、ひとりでに美味しいお酒が出来るから待っていようと、親子のカニが楽しみに待っている様子がファンタジーのように書かれています。この童話に共感し、また作者の宮沢賢治が、厳しい東北の地で、一農民として地域に溶け込んで生きていくその生き方にも感銘したそうです。

そこでワイナリーの100周年を機に、ワイナリーの名前を『山梨ワイン』から『くらむぼんワイン』へと変更したそうです。100年間慣れ親しんだ社名を変えるには、相当勇気がいったと思いますが、若い社長のたかひこ氏の決意の表れとも思われます。
お話を聞いて、益々ワインへの期待が高まります。


テイスティングです。
ソル ルケト 甲州 2012(EU輸出バージョン)  (株)くらむぼんワイン

ソルはフランス語で太陽、ルケトは輝くの意味。2011年からロンドン市場へ輸出しているものを国内向けに販売しているワインです。透明に近い淡いレモンイエロー。すだち、かぼす、ゆずなど日本の柑橘の香り(グリーンのイメージ)。しっかりとした酸が果実味をリードしつつも、優しくなめらかで、さわやかな後味の辛口白ワインです。春の山菜、夏の地元野菜、秋のきのこ、冬のなべ料理など四季折々の野菜と組み合わせて飲みたいワインです。

・ソル オリエンス 甲州 樽発酵 天然酵母 2012  (株)くらむぼんワイン


ソル(太陽)、オリエンス(昇る)と名付けられたこのワインは、勝沼でも最上級の甲州ぶどうが穫れるとされる鳥居平地区の甲州を使用。この畑は、自社畑で2010年から自然栽培の方法でぶどうを栽培している。不耕起草生栽培で肥料は与えない(7年の間で1回だけ腐葉土を撒いたのみ)。消毒は、最小限のボルドー液のみ使用。出来るだけ人が手を加えずに自然にまかせるやり方。理想的には、森の土(自然のサイクルで土が作られる。病害も自然が解決する。)だそうです。栽培が自然ならば、ワインも天然酵母で発酵させている。ぶどうの果皮についている天然酵母を用いる為に、通常白ワインの場合は果汁と果皮を分離して果汁のみで発酵させるところを、分離せずにそのまま発酵させて、果皮も一緒に漬け込んでおく方法にしている。

天然酵母は、良い作用も悪い作用もする酵母を含んでいるので、ヴィンテージ毎、畑毎に味わいの違うワインが出来る。これも自然の面白いところですね。テイスティングです。少し落ち着いた麦わら色。はっさく、いよかんなど日本の柑橘類の香り(黄色のイメージ)。あんず、完熟りんご、完熟バナナやバニラなど複雑な香り。
なめらかな口当たり。豊かな果実味とそれに溶け込んでいる酸、旨味のある軽い苦みのバランスがとれている。上品で心地よい樽のフレーバーが全体を包み込みやわらかいが厚みのある味わいの辛口白ワインです。

ここで2種類の甲州の比較です。

香り 同じ和の柑橘類の香りでも、ソル ルケトの方はグリーンのイメージのすだちやかぼすなどの香り。ソル オリエンスは黄色のイメージの、はっさくやいよかんなどの香り。
酸味  ソル ルケトはしっかりしてさわやかで、果実味をリードしている。ソル オリエンスは優しい酸で果実味に溶け込んでいるので全体的に柔らかい味わい。
味わい ソル ルケトは、若々しくすっきりとしたシンプルな味わい。ソル オリエンスは、落ち着いた厚みのある複雑な味わい。同じ2012年のヴィンテージの甲州でも対照的な味わいのワインでした。





3番目のワインです。
・ベル カント マスカット・ベイリーA 樽貯蔵 2013  (株)くらむぼんワイン


ベル(美しい)カント(歌)の意味。紫がかった若々しいルビー色。中心部が黒く濃い色合い。ブルーベリー、ブラックベリー、プルーンなど黒い果実の香り。甘草、シナモン、焦げた香りも。たっぷりの果実味と心地よい酸、若々しいタンニン、樽からくると思われる軽い苦み
それぞれがバランス良く結びつき、味わいにコクと深みを出している。アフターに甘酸っぱいぶどう由来のフレーバーが戻ってくる。凝縮感のあるミディアム・フルボディーの辛口赤ワインです。
一般的なマスカット・ベイリーAに比べて色が濃いのに驚きました。
野沢さんの説明です。
赤ワインは果汁と果皮を一緒にして発酵させますが、発酵途中でワインの一部を引き抜いて量を減らし、更に果皮から出る色素によってワインを濃い色にする方法(セニエ法)により色が濃くなるように造りました。上品な樽のフレーバーによって、マスカット・ベイリーA本来の甘い香りが控えめになることにより、合わせるお料理の幅がぐーんと広がります。トマトを使ったお料理、地鳥や鳥もつ煮、豚肉、みそやしょうがも良く合うそうです。

最後のワインです。
・あじろん・スパークリングワイン(甘口) 2012    (株)くらむぼんワイン

明治の初めに、デラウエアーなどと一緒にアメリカから入って来た品種。非常に甘い香りが特徴。完熟するとぶどうの粒が梗から抜けやすいので扱いが難しい。
エッジに紫の見える落ち着いた中程度の濃さのルージュ色。木イチゴ、チェリー、ストロベリー、すもものジャムのような、華やかな甘酸っぱい香りが広がってくる。口に入った途端に泡がぴちぴち跳ねて清涼感を感じさせてくれる。完熟ぶどうの濃厚な果実味(甘み)とそれを引き立たせるしっかりした酸味が絶妙なバランスで口中に広がる。完熟いちごや、完熟すももを丸かじりしたような、非常にフルーティーで、チャーミングな味わいの赤の甘口スパークリングワインです。(ガス注入式)単体で飲みたいですが、意外にも『あんこ』などの和菓子やこの季節なら『水羊羹』などのスイーツと合うそうです。私はこのワインをひと口飲んだ途端に、思わずテイスティングを忘れてがぶ飲みするところでした。あちらこちらから「おいしい!」、「すごい!」「いいねー」の声が掛かります。アジロンダックは他のワイナリーでもいくつか造られていますが、スパ−クリングワインとして造っているのはくらむぼんワインさんだけだそうです。




おかわりのワインが注がれます。皆さんのニコニコ顔を見ただけでこのワインの好感度がわかります。こども達が甘いおやつを貰って大喜びした時のように、皆さんのお口が軽くなって質問が飛び出します。
・自然栽培について
・コルクについて
・どこで買えるか などなど




甲府でワインを販売している方からの質問
「くらむぼんワインさんのワインを、お客様におすすめする時の『売り言葉』は何でしょうか?」野沢さん一寸考えて、「おかしな人が造っているワインですと言ってください。」と言う答えに皆さん大爆笑。さっきまで真面目にお話をしてくださっていたので、てっきりもの静かな方だと思い込んでいたのに、こんなお茶目な一面もあったのですね。楽しくワインを飲んで、お互いに心が解け合う。これこそワインの醍醐味です。

野沢さんのこれからの目標をお聞きしました。
・テロワールを表現したワインを造りたい。
・勝沼の風土に合っている甲州種とマスカット・ベイリーAに力を入れたい。
・地元に密着してワインを造っていきたい。そうです。

野沢さん本当にご多忙のところ、このセミナーにご出演くださり有難うございました。益々のご活躍を期待しております。

100年のワイナリーの歴史を受け継ぎ、さらに、いかにして自然な味わいのワインを造っていくかという、大きな課題に真剣に取り組んでいる若き醸造家の真摯な姿を見せていただいたセミナーでした。

やっぱりワインは、大勢でわいわい飲むのが最高ですね!
次回もお楽しみに!     篠原