かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第67回     2014.10.5


参加者
県外11名  県内9名  計20名

講師
篠原シニアワインエキスパート

アシスタント
深澤さん

ゲ ス ト
甲州市役所 産業振興課 石原 久誠(ひさのぶ) 様



ワインリスト
1 重川(おもがわ)甲州 2013 塩山洋酒醸造(株)
2 甲州樽発酵 2013 蒼龍葡萄酒(株) 
3 Kisvin(キスヴィン)ホワイト・ジンファンデル2013 (株)Kisvin
4 アサヤ メルロ 樽熟成 2013 麻屋葡萄酒(株)



セミナーの内容
1 本日のテーマ「行政マンから見る県産ワインの新たな一面」
2 テイスティングワインについて
3 テイスティングの方法
4 本日のゲスト 甲州市役所 石原久誠様のお話



レポート
10月の朝市は、勝沼で一番大きなお祭り「ぶどうまつり」の翌日です。素晴らしい秋晴れで、過去最大のにぎわいだった昨日と打って変わって、今朝は土砂降りの雨、雨・・。
台風18号が大接近です。早朝からセミナー開催の問い合わせメールが何組か入ってきました。「風でテントが飛ばされなければやりますが、決して無理して来ないでください。」と返信。「電車が動く限りは必ず行きます!!」のメールに私の心も決まりました。


テントがあってよかった!!高安さん、小澤さんに感謝です。早速準備です。雨合羽に長靴姿でいても、強い雨が身体の中まで入りこんできます。一人でバタバタしていると、毎回ボランティアでお手伝いしてくださっている深澤さんが到着。きょうは、パートナーが用事で欠席ですが、一人でもやって来てくれました。助かったー。

雨の中をポツリポツリとやって来られる参加者の皆さんも、今日の状況を察して、積極的にお手伝いしてくれます。有難いです。

何とか開始時間に準備が整いました。その時には何と20名の方が席に着いていてくれました。この台風の中でですよ!!これはもう絶対楽しいセミナーにしなければ!!
私篠原のテンションも上がります。


「それでは皆さん、台風に負けないように元気にやっていきましょうネ。」「エイ!エイ!オー!!」と掛け声を掛けると皆さん乗ってくれました。これは幸先が良い。


さあ、かつぬま朝市始まって以来の、サバイバルワインセミナーのスタートです。

はじめの挨拶もそこそこに(台風との競争ですので)、早速ゲストの紹介です。本日のテーマは「行政マンから見る県産ワインの新たな一面」と題して、甲州市役所産業振興課の石原様をお迎えしました。

石原さんの自己紹介です。
石原さんは、旧勝沼町〜現甲州市の職員として19年間行政の仕事に携わっていますが、そのうち17年間はワイン関係の仕事に関わってきたそうです。現在も、他県には珍しいワイン担当という係です。「甲州市の、いや山梨県のワインの事ならこの人にまかせて」と言う位の何から何まで知っている方です。石原さんがワインの面白さに気づきはじめたのは、30才の時にある醸造家と巡り合った事に始まるそうです。それまでは、このぶどうとワインの産地に住みながら何も興味を持てなかったワインですが、その醸造家に頂いたひとつの甲州種ワインを飲んだ時に、非常な感銘を受けたそうです。



「今まで口にしたワインとは全然違う。ワインの味わいに人間性が表れている。」驚きと感動を受けた石原さんは、たちまちワインに夢中になり、深くワインとの関わりを持つようになっていったそうです。それから現在に至るまでワイン一筋(もちろん行政マンとして種々の仕事をこなしながらですが)にその熱意を注いできました。



甲州市のワインを知るには、まずワイナリーとぶどう農家との関係を知らなければならない。原料ぶどうがどこから穫れているのか。生産の実態は? ワイナリーが買い入れた農家のぶどうのピーク時は15700トンあったものが、現在は
3000トンと5分の1に減っている。もうこれ以上減らせてはいけない。そういう思いにかられたそうです。

近年の甲州種ワインには、地域の特性を生かした香りや味わいが出てきた。甲州種の特徴を醸造技術で表現するのではなく、その土地(畑)の特徴で出したい。各地域の特徴に留意したワイン造りを進めていくには、畑に特化した基準やシステムを作らなければいけないと考えた。

フランスでは、国の法律としてのワイン法(A.O.C.)があるが、日本にはまだ無い。国税徴収の為の「酒税法」と、ワイン関係の民間団体の基準「国産ワインの表示に関する基準」があるが、自主基準なので内容も拘束力もあいまいである。地方公共団体ではどうなっているか。2002年に長野県において「長野県原産地呼称管理制度」が制定された。産地呼称には「品質保証」と「産地保証」の2つがあると考えるが、長野県は「品質保証」に重点を置いていると思われる。

甲州市では、産地呼称について研究を重ねた結果、2010年4月1日に「甲州市原産地呼称ワイン認証制度」を施行した。これから将来に向けて「甲州ブランド」を確立し、ワイン産地として国内外の産地競争に勝ち残る為に「産地保証」に重点を置き挑戦することにした。


具体的には
・原料のぶどうがどこで収穫されているか。
・生産の実態がどのようになっているか。
・このぶどうを使ってワインを造るワイナリーが、どこでどの様な方法でワインを造っているか。
・出来上がったワインの品質はどうか。
を第3者が検証し、甲州市が保証するということです。

私達消費者にとって、ワインのルーツがはっきりすることは、食品として安全を保証され、安心して口に入れることが出来ます。また生産者の顔が見えるので、生産者の方と会ってみたい、話を聞きたい、畑を見てみたいと1本のワインを通して
夢が広がります。

甲州市初の認証ワインは、2011年に誕生しました。この認証ワインからスタートして今年で4シーズン目です。当初は、5社6アイテム(銘柄)でしたが、2014年認定ワインは15社33アイテムとなりました。石原さんは、もっともっと多くのワイナリーに参加してもらえるようにしていきたいと意欲を語ってくれました。


ここで一息つきましょう。
頭の上のテントに雨がたまっています。まるでハンモックでお昼寝状態になっています。近くの方に席を立っていただいて、ザーっと水抜き作業をしました。テントに雨が沁み込んで所々でぽたぽた落ちてきています。中にはハンカチを頭に乗せている方
もいますが、だれも帰ろうとしません。逆にこの状態を楽しんでくださっています。
石原さんの原産地呼称のお話は、少し難しい内容でしたが、石原さんの熱の入った語り口に皆さん引き込まれて、聞き入っていました。リピーターの方は、何回かこのセミナーでも取り上げていましたので、その裏づけが出来て納得してお話が聞けたようでした。理解が深まったところで認証ワインのテイスティングです。


・重川 甲州 2013   塩山洋酒醸造(株)
甲州市塩山地区を流れる重川(おもがわ)の河川敷にある畑の、甲州種を100%使用している。この畑のぶどうは、他の自社畑に比べて成分値が高いので、単一畑のみで醸造した。外観はクリーンできれい。わずかにグリーンの残る透明に近いレモンイエロー。桜の花、りんご、洋梨、若い白桃、バナナなどの香りが華やかに立ち上がります。なめらかでやわらかい口当たり。たっぷりの果実味と溶け込んでいる酸。中盤からの軽い苦みがアクセントになっている。完熟果実の甘みと粘性の強さによって、ボリューム感のあるしっかりとした味わいの辛口白ワインです。


・甲州樽発酵 2013 蒼龍葡萄酒(株)
甲州市勝沼町祝4区の甲州種100%使用。オーク樽にて発酵させた。わずかにグリーンの残る透明に近いレモンイエロー。白いお花。イヨカン、ハッサク、などの柑橘系の香りや洋梨、白桃、ミネラル、バニラなどの香り。アタックは優しい。豊かな果実味、さわやかな酸、中盤からの軽い苦みのバランスが良い。これらを上品な樽の香り(焙煎コーヒーのような)が包み込み非常に心地良い。ふくよかな味わいの辛口白ワインです。



・Kisvin(キスヴィン)ホワイトジンファンデル 2013 (株)Kisvin
甲州市産ジンファンデル100%使用。2013年に設立されたばかりの、農業生産法人Kisvinワイナリー。2014年4月に初のワインが4アイテムリリースされたが、そのうちの1アイテムのワイン。私達は、初リリースワインに出会えてとてもラッキーでした。ジンファンデルという品種は
アメリカのカリフォルニア州とかイタリアのプーリア州などで多く栽培されている品種ですが、日本では珍しいです。ジンファンデルのロゼワインのことをホワイト・ジンファンデルと言います。エッジに紫の見える明るいローズ色。ロゼワインとしては濃いめの色合い。ストロベリーやラズベリーのジャムのような甘さを連想させる香り。コケモモのリキュールの香りも。アタックはなめらか。果実の甘さを感じた後、しっかり
とした酸と粘性を感じる。終盤の軽い苦みがこのワインを引き締め、酸と共に辛口へと導いている。最後まで果実由来の香りが続く、辛口でしっかりしたロゼワインです。



ここで石原さんから6次産業化のお話がありました。農家が農業→加工→販売まで行い、農産物の付加価値を高める新しい事業の形ですが、Kisvinさんもこの事業に取り組んでいるそうです。

最後のワインです。

・アサヤ メルロ 樽熟成 2013  麻屋葡萄酒(株)
甲州市勝沼町等々力地区で93年の歴史を持つ老舗のワイナリー。甲州市産メルロ100%使用。
 紫がかった濃いガーネット色。中心部が黒い。ワインの脚が長く、粘性あり。ブラックベリー、ブラックチェリー、プルーン、など黒い果実の香り。ハーブ、スパイス、バニラ、動物的なニュアンスなど複雑な香り。アタックは強い。ほのかなぶどうの甘みを感じた後、しっかりとした酸、若々しく収れん味のあるタンニン、ぶどうの果皮の成分が凝縮している感じ。余韻は長い。まだ若いワインなので、5年後、10年後の熟成された味わいが楽しみなミディアム・フルボディーの赤ワインです。


4種類の認証ワインのテイスティングが終わりました。それぞれのぶどう品種の特徴がしっかり出ていて、面白いテイスティングでした。これらのボトルの首の部分には、シルバーの認証マークが貼ってあります。石原さんの説明です。
原産地呼称ワイン認証審査をパスしたワインには認証マークを貼ることができます。シルバーは甲州市産原料使用。ゴールドは山梨県産原料使用です。どちらが上位ということはありません。有名なデザイナーによるこの素晴らしい認証マークを貼ったワインが沢山出てくれることを願っています。

これからは石原さんへの質問タイムです。


真っ先に手を上げたのが九州から来られた女性の方。「毎年『ぶどうまつり』とこの『ワインセミナー』を楽しみにして3年連続で来ています。今年のワインの試飲が1000円に
値上がりした理由は?」「それはいろいろありまして・・・」石原さん苦戦です。ここでワイングラスとワインの味わいの違いのお話です。「来年からは、ワインをよりおいしく、優雅に味わっていただく為に、グラスが大きくなりますので楽しみにしていてください。」で、1件落着です。



その他にも認証ワインのラベルについてなどの質問や、また今回の行政マンのお話を聞くイベントは、ワイナリーの話とはまた違って非常に興味があるので、また是非やってほしいなどの意見もありました。「それでは、来年もまた石原さんに来ていただきましょうか?」の私の呼びかけに皆さん大拍手で賛同してくれました。



楽しいお話に夢中になっていて、激しい雨音で我に返りました。そうでした、台風の最中でした。頭の上のテントが、またハンモックでお昼寝状態になっています。皆さんにも無事にお帰りいただかなければなりません。

石原さんのまとめのお話です。
「ワインの消費量はまだまだ伸びません。ワインを飲んでいる人は一部の方達に限られ、新しい層の獲得が求められています。大勢の方々に是非甲州市へ足を運んでいただいて、ワイン産業を若い方達へと繋いでいきたい。また、行政の側としても継続性が重要です。行政マンとして異例の長さでこの仕事に携わっていますが、意識・意欲のある若い職員の台頭が必須であり、今度は伝える立場としてこの仕事を繋げていく必要があります。」


「それからまた、皆さんのご意見を『甲州市原産地呼称ワイン認証制度』のホームページへお寄せいただき、皆さんで甲州市のワインを育てて頂きたい。またワインの事で尋ねたい事相談したい事がありましたら、ぜひ私に声を掛けてください。皆さんのお役にたてたら嬉しいです。」との提案にまたまた皆さん大拍手です。
石原さんには、まだまだワインと関わって頂いて、ワインを通して私たちに夢と感動を与えてほしいですね。



おなごり惜しいですがお開きの時間になってしまいました。
石原さん、きのうのおまつりでお疲れのところを、またこの様な悪天候の中を本当に有難うございました。お話とても楽しかったです。


サバイバルなワインセミナーでしたが、皆さん帰りがけに「今日は来て良かったです。
とても楽しかったです。また来ます。」と何人もの方が、わざわざ言いに来てくれました。こちらこそ有難うございました。どうぞお気をつけて。そして次回もお楽しみに。
篠原