第70回かつぬま朝市ワインセミナーレポート
2015.5.3

参加者
県外3名  県内8名  計11名

講師
篠原シニアワインエキスパート 

ゲスト
甲斐ワイナリー(株) 風間 聡一郎様




アシスタント  深澤さん、尚枝さん


ワインリスト
・かざま 甲州 辛口 2014 甲斐ワイナリー(株)
・かざま 甲州 シュール・リー 2013  〃
・古壺(ここ) デラウエアー 2013   〃
・かざま ロゼ メルロー 2013     〃



セミナーの内容
1 本日のテーマ「かざまワインを知る」
2 甲州種ワイン最新情報
3 テイスティングの方法
4 本日のゲスト 甲斐ワイナリー(株)  風間 聡一郎様の紹介





レポート
ゴールデンウイークの中日、素晴らしい青空に恵まれました。かつぬま朝市は大勢のお客様でごったがえしています。
我がワインセミナーのテントの中は、今回はお馴染みさんが多く、家族的な雰囲気で和気あいあいとしています。みんなで輪になって飲み会と洒落ようかという気分ですが、いえいえ、本日は70回目にふさわしい新進気鋭のゲストさんをお迎えしていることと、是非とも皆さんにお伝えしたい情報がありますので、張り切ってセミナースタートです。



まず私篠原から、甲州ワイン最新情報として、つい先日の4月23日に行われたあるワインの試飲会のお話です。朝、新聞を見てびっくり。甲州市勝沼町で大正時代から昭和初期に醸造されたワインが、滋賀県内の民家の蔵から8本見つかり、関係者が宮光園に集まりその一部を試飲するとのこと。日本ワインのルーツであり、甲州市近代産業遺産である宮光園の醸造所(旧宮崎葡萄酒醸造所)で造ったものとみられるが、宮光園のボランティアガイドとしては、ぜひぜひ実物を見てみたいという思いで早速会場へ駆けつけました。ダメもとでお願いしたところ、後ろの方で見るだけならばとOKを頂き、試飲の様子を見守りました。抜栓されたワインは2本です。

   
   


・大黒天印甲斐産葡萄酒  80年程前に造られた白ワイン。透明なボトル。甲州と思われる。コルクはボロボロになっていたが、抜栓と同時に華やかで芳醇な香りが会場に広がる。 保存状態は良好で、きれいな琥珀色。出席者から「果実味、酸味がしっかり残っていて素晴らしい味わい」と称賛の声があがった。
・甲斐産純粋葡萄酒  こちらの方が古く90年以前に造られたと思われる。茶色のボトル。やはりコルクはボロボロ。色はこげ茶から黒に近い。しかしエッジにはきれいな琥珀色も見える。ワインをデキャンタージュしながら、解説者は白ワインか赤ワインか迷った程。どうやら白ワインらしい。品種は不明。味わいは、あちらこちらから「すっぱい」の声が。香りからも黒酢を連想させる。
参加者のお話ですが、「この2本のワインの造られた間の期間には、醸造技術の面で大きな変化があったのではないか。また、試飲している間にも、ワインの味わいが変わっていき、このワインがまだ生き続けていることを思うと、感動で言葉に表せられない。」と、その興奮した気持が伝わってきました。現在、県内では、戦前に造られて流通していたワインは他には見つかっていないとのことですから、これらのワインがいかに貴重なものかがわかります。これから詳しく分析されるそうですので、その結果が期待されます。
緊張感が張りつめた試飲会でしたが、日本のワイン史上でも画期的な出来事でしたので、リアルタイムでその場を見ることができて、興奮さめやらぬ1日でした。

しばし、いにしえのワインに想いを馳せたところで、ゲストの登場です。
本日のゲストは、甲斐ワイナリー株式会社の風間聡一郎様です。
聡一郎さんは現社長のご子息で、実質的な後継者として、ぶどうの栽培からワインの醸造まですべてを手掛けておられる方です。風間さんのお話です。


風間家の酒造りは、江戸時代の後期今から約180年位前に遡る。代々日本酒の酒蔵でしたが、お祖父様の代(約30年位前)からワイン醸造を始め現在に至っているそうです。聡一郎さん(申し訳ありませんが以後ファーストネームで呼ばせていただきます)は、大学を卒業後1年間フランスのブルゴーニュでワイン造りを学び、帰国後2007年から家業に就きました。当時0.2haであった自社畑を聡一郎さんが8年間で7倍の1.4haに増やし、現在スタッフと共に2.5人位でやっているそうです。父親(社長)と一緒に畑仕事をするのをとても楽しみにしていたのに、あっと言う間にすべてをまかされてしまったと言って皆さんを笑わせましたが、その笑顔から、お父様に信頼されている誇りと自信を感じました。

自社畑では、甲州、メルロー、バルベーラなどを主として栽培していますが、イタリアで多く栽培されているバルベーラは、この地域ではまだ珍しい品種です。しかし、お客様からは、好評を得ているそうです。


自己紹介の後はテイスティングに移ります。



@ かざま 甲州 辛口 2014

 エッジにグリーンが見える、ほぼ透明に近い色合い。グリーンをイメージするスダチや、グリーン色のみかんなどの若々しい柑橘の香り。ミネラルの香りも感じられる。果実味(甘み)、しっかりした酸、心地良い苦みというより旨
味のバランスが良い。ワインのふくらみを感じる。アフターにメロンのような爽やかな甘みが感じられるが、味わいはスッキリとした辛口のワイン。まさにこの季節の山菜(タラの芽、コシアブラの天ぷらや、酢味噌あえなど)にぴったり。焼き鳥(塩)などもおすすめだそうです。

このワインはかざまワインの定番ワインで、全生産ワインの3分の1を占めるそうです。2014年の自社畑の甲州ぶどうは非常に良いぶどうがとれたので、ワインの出来上がりも上々だったそうです。また、辛口といっても僅かに甘みが感じられ、それによってふくらみを持たせ、飲み飽きしないワインになっていると思いました。


A かざま甲州 シュール・リー 2013


 最初の辛口に比べるとややレモンイエローの色がはっきりと見える。輝きが美しい。グレープフルーツなどの柑橘の香りに加えて、シュール・リー特有のイースト(食パンの香り)や酵母の香りも感じられる。なめらかな口当たり、果実の甘みと柔らかい酸味とのバランスが良い。後味にコクのある果実の甘みが特徴的な、ボリューム感のあるやや辛口のワインです。

 甲州種の良さが全面的に引き出されたと思えるホッとするワイン。会場のあちこちから「おいしい!」の声が聞こえる。肉じゃが、根菜類の煮物、焼き鳥(タレ)などなど今夜の和食のおかずには何にでも合いそうな、オールマイティーなワイン。単体でもどんどんいけそうです。
 
また、シュール・リーを飲んだ後に、最初の辛口を飲むと、辛口のスッキリとした味わいが更に感じられ、おもしろい比較になりました。


B 古壺(ここ)デラウェアー 2013


少しグリーンがかったレモンイエロー。@Aよりかなり黄色が濃い。ややにごりあり。香りのボリュームは大きく華やかで、黄色いお花、カリン、パイナップル、みつの様な香りも感じられる。さわやかな口当たり。たっぷりの果実味、しっかりとした酸。アフターに酵母の香りが戻ってくる。全体的に酸がリードして、軽快で爽やかな味わいになっている辛口のワインです。はっきりとした個性の表れたワインですので、餃子などの中華料理と相性がよいそうです。

デラウェアーは、ぶどうの粒が小さいし原料価格が他のぶどうより安いので、色々な可能性を持っている.造り方によってはおもしろいワインが出来そうとのお話です。




ここで質問の嵐です。


Q:酸がしっかりしているが、早めの収穫(青デラ)?
A:このデラウェアーは8月中旬に収穫した完熟ぶどうを使用した。種あり(種は重要)で糖度が18度と高かった。選果をていねいに行い、柔らかさを出す為に7か月間シュール・リー状態に置き辛口に仕上げた。
Q:少しにごりがみえるが?
A:品種の特徴を出来るだけ生かすため、にごりワインとして無濾過で仕上げている。にごりワインは繊細なので、当ワイナリーでは、併設している土蔵造りのカフェの方で販売・提供している。
Q:古壺(ここ)とは変わったワイン名だがその意味は?
A:有名な俳人高浜虚子の「古壺新酒」という言葉に由来している。古くからの技術に新しい技術を加え、次代につないでいくという意味を表している。カフェの名前にもなっている。

最後のワインです。


C かざま ロゼ メルロー 2013

美しいサーモンピンク。フランボワーズやチェリー、りんごなどの果実の香り。アタックはなめらか。豊かな果実味と程良い酸、果皮からくる心地良いタンニンのバランスがとれていて、しっかりとした味わいを出している辛口のロゼワイン。
お肉などと相性が良さそう。聡一郎さんは、酢豚がおすすめだそうです。




またまた質問の嵐です。
Q:このロゼワインの造り方を教えてください。
A:このワインは、メルロー100%使用で、セニエ(赤ワインと同じ醸造方法で造り、程良く色が着いたらタンクから一部を引き抜く方法)でもなく、醸し(赤ワインと同じ方法で造り、色が着いたらプレスして果皮や種と離す方法)でもなく、
ブラッシュ製法で造られている。ブラッシュ製法とは、ほぼ白ワインと同じ方法で、メルローを絞って、その果汁を発酵させる。普通に絞ってもこのピンク色になる。この方法で造るとフレッシュタイプのワインとなる。
Q:ロゼワインの良さとは?
A:ロゼワインは色々なお料理に合わせやすいので便利。また今の季節、バーベキューなど野外で食事する場合でも、それほど温度を気にしなくても良いので重宝なワイン。
さらに質問が続きます。
Q:シュール・リーはいつから造っている?
A:2009年から造っている。当初、父(社長)はシュール・リーに大反対した為、密かに造った。(笑) 自分はこのワインが気に入っている。自分の好きなワインを造って、皆さんに飲んでもらいたい。
Q:フランスで学んで来たことが、今のワイン造りに生きているか?
A:生きていない。(きっぱり)フランスと日本では気候が違う。今まで色々な失敗をしてきたが、自分の造ったワインが国産ワインコンクールで銀賞を受賞し自信となった。「失敗は成功のもと」と思っている。フランスへは今行きたい。今なら  得るものが沢山あると思う。
Q:かざまワインの個性をつくる畑はどのようにしているか?
A:海外の畑と日本の畑との違いは、海外では土壌が肥えていないのでぶどうしか作れない。日本の畑は、肥え過ぎているので、自社畑は肥料も与えないし耕さない。垣根づくりで草生栽培にしている。
Q:これからの目標は?
A:赤ワインの品種であるメルローやバルベーラを増やしたい。コンクール入賞を目指したワインではなく、自分の好きなワインを造りたい。しかしライバルである同期の仲間には負けたくない。(笑)

まだまだ質問がありましたが、書ききれません。今日このセミナーに参加してくださった方の中には、自分でぶどうを栽培してマイワインを造り始めた方、ワインを販売している方、また学問として地域づくりを研究している方などそれぞれ目的意識を持って参加されている方が多かったので、皆さん真剣に質問されていました。
質問に対して、聡一郎さんが直球で答えを返してくださったので、きっと皆さん大満足だったと思います。


冒頭の戦前に造られたワインが80年〜90年経った今なお生き続けて、私達に驚きと感動を与えてくれたことと、現代に生きる新進気鋭の若き醸造家の熱き想いを聞くことができて、正に「古壺新酒」のワインが次代につながるという意味を確信しました。

聡一郎さんには、自分の想いのこもったワインを造っていただいて、大勢の方に喜びと感動をあたえてくださる事を期待したいと思います。

聡一郎さん、本日はお忙しい中をセミナーにご出演くださり、本当に有難うございました。充実したセミナーでした。



なお、この後、朝市会長のはからいにより、シャトルバスが甲斐ワイナリーさんを経由してくれることになりましたので、早々に記念撮影をしてお開きになりました。



次回もどうぞお楽しみに!     篠原