かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第73回
     2015.8.2
 
参加者
県外7名 県内2名 計9名



講師 篠原シニアワインエキスパート



ゲスト
本坊酒造(株) 山梨マルスワイナリー 茂手木 大輔様


アシスタント
深澤さん、尚枝さん


ワインリスト

・甲州白根 シュール・リー 2014 本坊酒造(株)山梨マルスワイナリー
・ヴィオニエ&甲州 2013 〃
・カベルネ・ベリーA 穂坂収穫 2014 〃
・三之蔵ルージュ 2011 〃



セミナーの内容
1 本日のテーマ「マルスワインの個性とは」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について
4 ゲストの本坊酒造(株)山梨マルスワイナリー 茂手木大輔様のお話


 
 

レポート
7月19日の梅雨明け宣言(昨年より2日早い)以来、勝沼では35度以上の猛暑日が続いています。ぶどうの成育も例年より1週間位早まっているようですが、 本日も37℃を超える予報が出ていますので、人にもぶどうにももう少し優しいお天気になってくれることを願うばかりです。さあ、今日も暑さとの戦いです。がんばっていきましょう!!
 


8月の朝市は夏休み中ともあって大勢の家族連れで賑わっています。この炎天下、赤ちゃん連れの家族や、シニア世代の方々が少しでもと涼しさを求めて、ワインセミナーのグリーンのテントの中に駆け込んで来ます。そこで今回はセミナーが始まるまでの間、このテントを休憩所にして冷たいお水をサービスしました。皆さんのほっとした様子を見て私も安心しました。

賑やかなカフェ状態の中でワインセミナーがスタートしました。
早速ゲストの紹介です。笛吹市にあります本坊酒造(株)山梨マルスワイナリーで、醸造を担当していらっしゃいます茂手木大輔様です。



本日のテーマ 「マルスワインの個性とは」についてお話を伺います。それから今回は、試飲ワイン4本のうち3本が何種類かの品種をブレンドして造られたワインですので、ブレンドについてもお話が聞けると思います。



茂手木さんのお話です。
〜ワイナリーについて〜
本坊酒造(株)は鹿児島県に本社があり、創業は明治5年、今年で143年になる総合酒造メーカーです。焼酎、梅酒、ウイスキー、ブランデーなどを主に造っていますが、ワイン産業部門は、1960年に山梨県笛吹市に設立されました。今年で55年目になります。茂手木さんはこの工場の醸造部門を担っています。



〜テイスティング〜
甲州白根シュール・リー 2014  甲州100%


このワインは、ワイナリーのある石和から車で約1時間位南西に行った、南アルプス市白根地区の甲州ぶどうを100%使用しています。白根地区は、南アルプスから流れてくる御勅使川(みだいがわ)の扇状地で、砂利や小石が多く水はけの良い土地柄です。この土地で収穫されるぶどうは、味が濃くなりミネラル感が高まります。若干渋みやえぐみのあるぶどうになりますが、これがワインになると旨味に変わり、味わいを楽しめるワインになります。

ややグリーンがかった淡いレモンイエロー。グレープフルーツやレモンなどの柑橘の香りが立ち上がってきます。酵母やパンなどの香ばしい香りや僅かにキャンディーのような香りも感じます。たっぷりの果実味としっかりした酸、中盤から旨味のある苦みとミネラルを感じる。若々しい酸を中心として、果実味と旨味が広がっていくボリューム感のある爽やかな辛口白ワインです。

・ヴィオニエ&甲州 2013


ヴィオニエという品種は、フランスのコート・デュ・ローヌ地方で多く栽培されている品種ですが、日本ではあまり見かけません。多分日本でワインにしているのは、マルスさんだけではないかというお話です。非常に特徴的で華やかな香りがあります。


このヴィオニエは、白根地区より標高の高い韮崎市穂坂地区にあります日之城農場で栽培されていますが、これと穂坂地区の甲州とを半々位にブレンドしてワインが造られています。

ややグリーンがかった淡いレモンイエロー。輝きが美しい。黄色いお花、オレンジ、黄りんご、白桃、梨、ライチ、蜜など華やかな香り。アタックはなめらか。完熟ぶどうの豊かな果実味と程良い酸のバランスが良い。心地よい軽い苦み、優しく粘着性のあるふくよかな味わいがバランス良く横に広がっていく辛口白ワインです。

〜ブレンドの効果〜
ヴィオニエ・・香りが特徴的、どちらかと言えば酸は控えめ、味わいに厚みがある。
甲州・・香りの種類が少なめ、酸がしっかりしている。これらの品種をブレンドすると、香りが豊かで、味わいに厚みが出てきて、酸がきれいなバランスのとれたワインになる。それぞれの品種の良いところでお互いの足りない部分をカバーし、さらに品種の融合によって、ワンランク上の味わいを造りだす。

ここで甲州100%の「甲州白根シュール・リー」と、ブレンドワイン「ヴィオニエ&甲州」の飲み比べをして、それぞれのワインの特徴を確認しました。

3番目のワインです。
・カベルネ・ベリーA 穂坂収獲 2014


このワインは、穂坂町で収穫され、発酵後フレンチ・オークのタルで熟成された、カベルネ・ソーヴィニヨンとマスカット・ベリーAをブレンドして造られています。エッジに紫の見える美しいルビー色。ぶどう由来のキャンディー、綿菓子のような甘さを連想させる香り。さらに、もう少し重い感じのブルーベリー、カシス、スパイス、ミント、バニラなどの香りも。アタックは、スマート。若々しい果実味と爽やかな酸、程良いタンニンがまろやかにまとまっている。全体的に若々しくチャーミングなミディアムボディーの赤ワインです。

〜ブレンドの効果〜
カベルネ・ソーヴィニヨンの特徴として、ワインをビン詰めしてすぐには香りや味わいが横に広がってこない。そこに柔らかい品種のマスカット・ベリーAで囲ってやるとバランスがとれてくる。熟成感を付けずにフレッシュなまま、バランスのとれたワインを造り出すことが出来る。

最後のワインです。
・三之蔵ルージュ 2011

 

三之蔵地区のぶどうと一部日之城農場のぶどうが使われています。シラー32%、メルロー26%、カベルネ・ソーヴィニヨン21%、カベルネ・フラン11%、プティ・ヴェルド10%の5品種がブレンドされ、フレンチ・オークのタルで27か月間長期熟成されたワインです。マルスワインを代表する「日之城」のセカンド的ワインです。

オレンジがかった中程度の濃さのルビー色。ブラックベリー、カシス、黒コショウ、丁子、紅茶、ドライフラワー、ロースト香など複雑な香り。アタックは強い。熟成した果実味と程良い酸、こなれてきれいなタンニンのバランスが非常に良く、一体化している。アフターに軽いタルの香りと、心地良い余韻を感じるスマートなフルボディーの赤ワインです。





〜地名表記のワインについて〜
今回テイスティングしたワインのボトルに表記された地名、又、茂手木さんのお話に出てくるぶどうの産地名の持つ意味についてのお話です。

マルスワインの原料であるぶどうは、山梨県内の石和、牧丘、御坂、穂坂、白根の各地区の自社農場や契約農家のぶどうが使われています。同じ県内で、同一品種であっても土壌、気温、地温、雨量、日照時間、標高、傾斜などなどの自然条件によって、ぶどうの色の濃淡、熟成の度合、果皮の厚さ、ぶどうの実の凝縮度、酸度、糖度など様々な違いがあります。


例えば地温の暖かい畑のぶどうは、果皮が薄い、水分が多い、酸が控えめ、糖分が多いなどの特徴があるので、低温発酵などして第二アロマ(発酵によってで出てくる香り)を付けてやる。又、冷涼な気温でぶどうが熟すのがゆっくりな畑のぶどうは、果皮が厚く、香りが豊かで、酸が強く骨格もしっかりしている果実になるので、第一アロマ(ぶどうから出てくる香り)を生かしてあげる。まだまだ沢山の個性を持ったぶどう達ですが、これらの地域によるぶどうの特徴(個性)を醸造段階で見極め工夫することによって、それぞれの個性を生かした特徴あるマルスワインが生まれるのです。




〜特別な畑「日之城」〜
韮崎市穂坂町三之蔵地区にある2.2haの「日之城農場」は、マルスワイナリーにとって特別に思い入れの深い畑です。他の地域の畑の多くは、契約農家さんにぶどうを作ってもらっていますが、ここは平成12年に購入した自社畑です。茅が岳の麓に位置した南東向きの緩い傾斜畑で、冷涼な気温と長い日照時間、昼夜の寒暖差が大きいなどワイン用ぶどうにとって好条件が揃っています。


自分達の造りたいワインをまず目標にして、土壌改良し、苗を植え付け、栽培をしていくなど全て自分たちの手で作ってきた畑なのです。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド・・などワイン専用品種が植えてありますが、粘土質の土壌は、ぶどうの栄養分を保持しやすいので、腰の強い骨格のしっかりしたワインになるぶどうが収穫できます。又、この地区特有な八ヶ岳おろしが夕方から吹くことによって、湿気を吹き飛ばし病気になりにくい好条件にもなっています。これら色々な要素が重なって、県内の赤ワイン用品種の好適地として、日之城を中心とした穂坂地区が注目されています。

マルスワイナリーの皆さんの努力によって、自分達で手掛けたぶどうで造ったワインが、過去の国産ワインコンクールにおいても見事金賞、銀賞、カテゴリー賞などいくつもの立派な賞を受賞しています。今後も良いぶどうを作って美味しいワインを私達に提供してくださることを期待しています。





テイスティングワインのお話が終わりました。ここからは、総合酒造メーカーならではのお話です。

〜ワインと他の酒類との違い〜
・焼酎・ウイスキー・ブランデーなど・・・蒸留酒。元の原料(芋類、穀類、果実など)の味わいが変わり、熟成、環境によって味わいに影響するファクターが大きい。
・ワイン・・・醸造酒。製造過程で一切熱を加えないので、原料であるぶどうが、そのままワインに移行していくという飲み物。ぶどうの良し悪しがワインの出来に強く関わってくる。良いぶどうから良いワインが造られるということです。



〜マルスワイナリーならではの試み・・・かめ(甕)仕込み〜

本社で焼酎造りに使っていた和がめに、ぶどう果汁を入れて発酵させるという、かめ仕込みを行っています。素焼きのかめは、空気は通すが液体は通さない。かめの中に空気が入り、発酵中に適度の酸化熟成が行われて、ワインの味がまろやかになりやすい。タンク熟成とは違った味わいが楽しめます。また反対に、石和のワイナリーで使ったワイン樽を、信州にあるウイスキー蒸留所でウイスキーの後熟成に使うなど、総合酒造メーカーならではの試みが行われています。


〜フランスの「ワイン醸造セミナー」に参加して〜
茂手木さんは、6月初旬にフランスの南部にある都市、トゥールーズで行われた「ワイン醸造セミナー」に参加して来られました。フランス、ドイツ、イタリア、アメリカなど20〜30か国から約70名が参加し、日本からは、茂手木さんと醸造資材メーカーの方の2名だったそうです。そこで感じた事は、日本が注目されている、各国の人が日本の国及び日本ワインの事を聞きたがっているのを強く感じたそうです。持参した甲州ワインについては、「繊細な味で、世界の他のワインには無い味わい。」と、非常に興味を持ってくれたそうです。セミナーの後、フランスワインの二大銘醸地のボルドーとブルゴーニュのワイナリーを見学して、両産地のワインに対する取り組み方を勉強して来られたそうです。


真夏の強い太陽の下、テントの中にいてもその暑さが伝わってきます。しっかり冷やしておいたワインも温まってしまいます。それでも心を込めてお話をしてくださる茂手木さんの熱意に、参加者の皆さんしっかりメモをとりながら聞き入っていました。沢山の質問もありもっと聞きたい事もあるようでしたが、終わりの時間が迫ってきました。

茂手木さん、37℃を超える酷暑の中をご出演くださり、本当に有難うございました。貴重なお話に、皆さんきっと満足してくださったと思います。と同時に、2日後に発表される「日本ワインコンクール」の結果の中から、身近になった白根、穂坂、三之蔵、日之城の地名を一生懸命にさがしてくれることとおもいます。きっと見つかりますように!!!







最後にワイン俳句です。今回は、ひょっとしたらワイン俳句無しと油断していらした方、残念でした。ご協力ありがとうございました。
 

・あたたまる ワインの味が 美味になる  ウッキーママさん
・暑さすら 一瞬忘れる 美味なるワイン  なおさん
・暑い朝市 夢は日之城 コート・デュ・ローヌ  かるがもさん
・あつすぎて ワインのよいが すぐまわる  ふじむら(ゆ)さん
・朝から渋滞で 遅れてしまったけれど ワインを知れた ふじむら(し)さん 楽しかったです! また来ます。
・ドライバー ワイン飲めずに 帰路につく  加トさん
・暑い夏 ワインセミナー ヴィオニエ!  ワシントン弘子さん
・八月は ワインセミナー 人が減り  kさん

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追 日本ワインコンクール 2015 の結果発表  (8月4日)
・欧州系品種(赤)
金賞 シャトーマルス キュべ・プレステージ 
穂坂日之城キャトル・ルージュ 2013

・スパークリング
金賞 マルス 穂坂シャルドネ スパークリング 2008

・欧州・国内改良品種等ブレンド 赤
銀賞・コストパフォーマンス賞
シャトーマルス カベルネ・ベリーA穂坂収穫 2014
この外にもマルスワインさんの数々のワインが、銀賞・銅賞・奨励賞を受賞されています。

本当におめでとうございます!!!


次回もお楽しみに 篠原