かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第74回 2015.9.6





参加者  県外8名  県内10名  計18名



講師  篠原シニアワインエキスパート


ゲスト
大和葡萄酒(株) 江澤允俊 様、古家可南子 様



アシスタント 深澤さん、尚枝さん



ワインリスト  
・番イ(つがい)スパークリング 2014 大和葡萄酒(株)
・古代甲州 2014  〃
・大阪紫葡萄 2013  〃
・+WA(プラス・ワ)・ベリー瑛 2014  〃




セミナーの内容
1 本日のテーマ「大和葡萄酒独自のワイン造り」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について
4 ゲストの大和葡萄酒(株)江澤允俊様、古家可南子様のお話

レポート
秋雨前線が停滞し、雨が降ったり止んだりのはっきりしないお天気が続いています。今日も曇りのち雨の予報ですが、朝市が終わるまでなんとか降らないでと祈るばかりです。8月の終わりから9月の初めのこの時期は、ワイナリーではもうワインの仕込みが始まっていて、ヌーボーワインとして早く飲める品種、デラウエアーやアジロンや巨峰などが次から次へと運び込まれて大忙しです。そんな中、今回の朝市ワインセミナーでは、大和葡萄酒さんから、お二人の方をゲストにお迎えしました。早速セミナースタートです。

本日のゲストは、大和葡萄酒(株) 製造課 の江澤允俊(まさとし)様と古屋可南子(かなこ)様です。お二人共、ぶどうの栽培から醸造まで手掛けておられるそうですので、色々なお話が聞けると思います。楽しみです。




お二人の紹介が終わったところで、皆さんにある飲み物を2種類飲んでいただきました。無色透明で1番は無味、2番は何か味があります。「2番は変った味がする」などと声が聞こえます。「ミネラルウオーターで、1番は軟水、2番は硬水です。」と女性の方から答えをいただきました。その通りです。1番と2番の味わいの違いは、水に含まれているミネラルの量の違いですね。このミネラル感を感じたあと、ゲストのお話を聞いてもらうと理解しやすいかなと思い、ミネラルウオーターをまず試飲しました。

大和葡萄酒さんと聞くとすぐに頭に浮かぶのが、日本の伝統品種を大切にしている事、甲州の垣根栽培に取り組んでいる事、スパークリングワインが豊富でおいしい事、ラベルが難しい事(?)などなどがありますが、さてどんな事にこだわりを持っているワイナリーでしょうか。

古屋さんの大和葡萄酒(株)についての説明です。
大和葡萄酒の萩原家は、江戸時代の250年間、現在の山梨市落合で油問屋を営んでいたそうです。ワイン産業に関わるようになったのは、大正2年からで、当時の当主萩原保太郎氏は、現在のフジッコワイナリーである「栗原葡萄酒組合」の設立に寄与しました。又、代が啓太郎氏に代わってからは、昭和7年ごろ勝沼等々力地区の「第十一葡萄酒組合」の設立に寄与し、昭和28年に法人化して「大和葡萄酒(株)」となり現在に至っているそうです。現社長は萩原保樹氏です。

80年以上も前の葡萄酒組合のワインの味はどうであったろうかなど想いを馳せながら、本日最初のワインのテイスティングです。



・番イ(つがい)スパークリング 2014


ミネラル分豊富な畑で収穫した甲州ぶどうを100%使用して醸造し、シュール・リー製法により旨味を引き出した後、炭酸ガスを溶け込ませたスパークリングワイン。淡い落ち着いた色合いのイエロー。一般的な甲州よりはやや色が濃いめ。グラスに注いだ瞬間、勢いよく細かい泡が立ち上がります。香りは和の柑橘類、ハッサクやイヨカンの香り、スーっとするミントの香り、酵母や食パンや磯の香りも感じられます。アタックはシャープ。シュワっとする泡の感触を感じた後、しっかりとした酸と軽い苦み、後半に口中に旨味が広がる。酸の切れが良いので飲み込んだ後が爽やか。しっかりした厚みが感じられる、スパークリングワインです。

このワインは、先日行われた「日本ワインコンクール2015」で、見事、銀賞・コストパフォーマンス賞を受賞されました。

続いて江澤さんのお話です。
大和葡萄酒独自のワイン造りについて
〜日本古来の品種を原料に、日本独自のワイン造り〜
日本最古のぶどう品種「甲州種」、その中でも日本最古の木であろうと言われている
のが、勝沼の中央園にある「甲龍」と呼ばれるぶどうの木です。樹齢130年〜140年とも言われるこの木は指定文化財になっていて、大和葡萄酒が管理をまかされています。いまでも、立派に甲州ぶどうの実をつけています。この「甲龍」から枝分けされた木や、樹齢100年の三森甲州から枝分けされた木からとれたぶどうを使ってワインを造っています。この外にも大阪に伝わる紫ぶどう、長野県で多く造られている竜眼、甲州市で昔造られていた甲州三尺、京都聚楽ぶどう、熊本県の高浜ぶどうなど、日本各地に古くから伝わるぶどうをさがして研究しています。この内、紫ぶどうはすでに商品化され、高浜ぶどうのワインも少ロットですが、昨年から造られています。

〜甲州種の垣根栽培〜
日本古来のぶどう品種{甲州種}ですが、生食用ぶどうをそのまま使用したのでは、どうしても水分量が多いなどワイン原料として好条件ばかりでは無い。そこで、水分を減らして凝縮感のあるワインを造るべく、甲州種の垣根栽培に挑戦しました。甲州種は樹勢が強く枝が伸びるのが早いので、樹勢を抑えて、栄養分がぶどうの房の方へ回るように研究を重ね、難しいといわれた甲州種の垣根栽培に成功しました。

〜アミノ酸値の高いぶどうを使用〜
5〜6年程前から、山梨県内の甲州ぶどうの中で、よりアミノ酸値の高いエリアを求め、契約栽培農家になってもらい、そのぶどうでワインを造っています。アミノ酸はワインに厚みを増す効果がある事がわかっています。

〜ミネラル甲州プロジェクト〜
アミノ酸と同様にワインに凝縮感を与える成分としてミネラルに着目して、畑の土壌
改良を行っています。今まで廃棄処分されていた貝殻を回収し、高温で焼成化した後粉砕したものを畑に散布します。この畑からとれたぶどうは、それ以前のぶどうよりミネラル分の数値が高まり、ワインの味わいにも厚みや凝縮感など良い結果が確認されています。



2番目のワインのテイスティングです。
・古代甲州 2014 江澤さんの説明です。

日本最古といわれる甲州ぶどうの木「甲龍」から枝分けされた、ぶどうで造られています。
このワインは、他の甲州に比べ少し熟成感がある造りにしています。タルに半年位 入れてあるので、ほのかなオークの香りを感じます。落ち着いた色合いのイエロー。華やかな銀モクセイのようなお花の香りが立ち上がってきます。洋梨、黄桃、バニラ、バター、キャンディーやカスタード・クリームなど甘さをイメージする香りやナッツのような香りも。アタックは強め。豊かな果実味を感じた後、しっかりとした酸と中盤からの苦み。それぞれの味わいがはっきりしている。酸を中心にして骨格がしっかりしているので、味わいにふくらみと広がりを感じる。少し熟成した味わいだが、後味はすっきりとしている。香り、味わい共にスケールの大きい辛口の白ワインです。

ワインを飲み込んだ後、口中にダシの旨味の様な感じがあり、ダシ巻玉子やホウレン草や小松菜などのクルミあえなどの和食にも、またチーズを使ったパスタやピザなどの洋食にも合いそうです。



3番目のワインです。
・大阪紫葡萄 2013 古家さんの説明です。


日本古来品種として大阪に根付いた「紫ぶどう」を使って造られています。DNAを調べたところ甲州種と一致したそうです。ルーツは、1592年頃、豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に持ち帰ったのではないかと言われています。一時絶滅したかと思われていましたが、萩原保樹社長が、大阪の羽曳野市富田林という所から見つけ出し、勝沼の自社畑で栽培して増やしてワインに造り上げたものです。低温発酵とシュール・リー製法により造られていますので、香りが良く、グレープフルーツや日本酒の吟醸香の様な香りが華やかに感じられます。程良い酸と余韻も長く感じられます。お食事との相性は、私はパンのベーグルにバニラアイスクリームを挟んだものと合わせるのが好きです。「えー?」と言う驚きの声と笑い声が上がりました。

それではベーグル+バニラアイスクリームに合いそうか、テイスティングしましょう。
エッジにグリーンの見える輝きのあるレモンイエロー。香りのボリュームは中程度。グレープフルーツなど柑橘の香り。吟醸酒の様な酵母や食パンの香り、りんごの香りなど。アタックはさわやか。豊かな果実味と軽やかな酸、心地良い苦みのバランスが良い。アフターにグレープフルーツの皮の様な香りが戻ってくる。
すっきりとして、軽やかな味わいの辛口白ワインです。香りや味わいが横に広がるというよりも、日本酒の様に縦につながっていく感じがします。和食で抹茶を使ったお料理、例えば白身魚の天ぷらに抹茶塩や抹茶のゼリーなどと合わせたい。オレンジのピールとも合いそう。
課題のベーグル(パンケーキでも良いかも)+バニラアイスクリームは、是非皆さん実際に試してみてください。そして感想をお聞かせください。楽しみにしています。

DNAが同じという2番「古代甲州2014」と3番「大阪紫ぶどう2013」の比較です。

古家さんによると、ぶどうの特徴として、紫ぶどうの方が甲州より粒が小さく形も少し違うそうです。ぶどうが育った環境によるのでしょうか。非常に興味のあるところです。ワインを比較すると、大阪紫の方が若々しい色合い、酸が優しい、古代甲州の方が熟成した味わいなどの違いがあります。

ここで質問です。
「古代甲州」はヴィンテージが2014ですが、「大阪紫ぶどう」2013より熟成した感じがするのはなぜでしょうか?

江澤さんのお話です。
・熟成感のあるワインの造り方
一般的にワインは酸化させない造り方をしますが、あえて酸化させることによって、香りや味わいに厚みや熟成感を与えることが出来ます。ミクロ・オキシジネーションという方法を行っています。1番目の「番イスパークリング2014」も2番目の「古代甲州2014」もこの方法をとっています。先に酸化させるとボトルに入れてからは酸化しにくくなります。



最後のワインです。
・+WA(プラス・ワ)・ベリー瑛2014

難しい名前のワインです。プラスとはなんでしょうか? 江澤さんのお話です。
大和葡萄酒では、8年前から「ミネラル甲州プロジェクト」を行っています。日本の土壌はヨーロッパに比べミネラル分が少ないので、ワインも薄っぺらになりやすい。そこで土壌から変えていこうという考え方で、廃棄処分する貝殻を肥料にしてミネラル分を高めるという方法を考えつきました。貝殻はそのままでは吸収されないので、焼いて、粉状にした物を自社畑や契約農家さんにも撒いてもらいました。試行錯誤しながら、そこで育てたぶどうを何年もかかって繰り返し検証を行った結果、ミネラル分を多く含むぶどうの栽培に成功し、このぶどうで造ったワインも骨格がしっかりして厚みのあるワインに仕上がりました。プラスとは、ミネラルをプラスする意味です。WAは日本を意味する「和」で、ベリー瑛の「瑛」は美しいぶどうの雫の意味です。

テイスティングです。
エッジに紫の見える、深い色合いのルビー色。ぶどう由来の綿菓子やキャンディー のような甘い香り。またプラムとかイチゴジャムのような香りも華やかに立ち上がってきます。たっぷりの果実味と程良い酸、軽いタンニンと僅かに苦みを感じる。飲み込んだ後に海苔のような旨味を感じる。これらが全体的にひとつにまとまって、なめらかさとボリューム感を出している。辛口のミディアムボディーの赤ワインです。
江澤さんのおすすめ料理です。醤油ベースの甘辛い和食。例えば、肉じゃが、スキヤキ、季節の野菜の煮物など、ダシの旨味とミネラル分がプラスされて、さらに両方がおいしくなります。

最後にお二人のまとめです。
美味しいワインは良いぶどうから。私達は畑作り、ぶどう栽培、醸造とすべてを一貫してやっていますので、良いぶどうをタンクに入れたいという思いで、日々研究しています。また日常のお食事と共にワインを召し上がっていただけるように、ワインとお料理についての情報も発信していきたいと思っています。


また大和葡萄酒では、ワインの外にビールも造っています。是非お気軽にワイナリーにお出かけください。


今回は今まで何となく知っていた「ミネラル」について、深く知る機会に恵まれました。ミネラルウオーターを飲んでみたり、貝殻や酒石(ワインに含まれるミネラルと酸が結合して結晶になったもの)を見て、そしてミネラル分の多く含まれるワインも味わう事もできました。「ミネラル」が少し身近になったような気がします。




今回の大和葡萄酒さんのワインは、先ほど紹介しました「番イスパークリング」をはじめ、日本ワインコンクール2015や過去のコンクールで、すべて大きな賞を受賞したワインです。お二人のお話の中から、チャレンジ精神が旺盛で、未知のものを知る好奇心に溢れた活気のあるワイナリーさんの社風がうかがわれ、それらがいろいろなコンクールでの受賞につながっているのかなと思いました。

江澤さん、古家さん、ワインの仕込みと重なりお忙しい時にご出演くださり、本当に有難うございました。お若いおふたりが益々チャレンジされて、私達に益々美味し
いワインを提供してくださる事を期待しています。

最後に参加者のワイン俳句です。
・古き良き ぶどうの力が 今もなお(ぐでいさ さん)
・ミネラルが ミナぎる明日への エネルギー!!(ぐであや さん)
・セミナーで 離れた息子と 会話でき!!(吉田プリン さん)
・ミネラルは カラダとワインに いい効果(ネコ太郎 さん)
・朝市で 古代の葡萄に 想い馳せ(わい さん)
・ミネラルを しっかり感じた ワイン会(みのじ さん)
・ゾーク栓 世界に拡まり ますように(みわ さん)
・ワインとは 奥が深いものだ ワインには 製造者の努力が感じる(キクちゃん さん)
・せみの声 ワインセミナー またきたい!!(ポチオ さん)
・かつぬまの とんぼの羽も ワインいろ(カサイケイコさん)
・日本には 日本のワインが よく合うね(しょこたん さん)
・ゾーク栓 明日も飲める 収穫か(ヒロ さん)
・ワインのむ 異世代交ざる テント下(菱山あいあいさん)
・朝市で 古来品種 飲み比べ(K さん)
・ワインセミ 言われた通りの味になり!(タツミ さん)
・飲み比べ 広がる豊かな 表現力(すずっ子 さん)

次回もお楽しみに 篠原