かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第75回 2015.10.4
 


参加者  県外12名  県内6名  計18名
講師  篠原シニアワインエキスパート 
ゲスト  甲州市役所 産業振興課 石原久誠 様


アシスタント  深澤さん


ワインリスト
・かざま甲州 やや甘口 2014         甲斐ワイナリー(株)
・ルバイヤート 甲州シュール・リー 2014   丸藤葡萄酒(株)
・ハラモ ヴィンテージ 甲州樽熟成 2013   原茂ワイン(株)
・シトラスセント 甲州 2014        蒼龍葡萄酒(株)    

セミナーの内容
1 本日のテーマ「甲州ワインの変遷とこれから」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について
4 ゲストの甲州市役所 産業振興課 石原久誠様のお話




レポート
秋真っ盛り。「ぶどうまつり」の翌日です。なんと素晴らしい日本晴れでしょう。朝起きて確認するまでは、このお天気が信じられませんでした。何といっても去年の10月のこのワインセミナーは、朝市史上最悪の土砂降りでした。去年とゲストさんも同じだし、参加者の方々も去年と同じリピーターさんが多いし、いやいや他人のせいではありません。すべては、私篠原のせいなのですが、とにかくホッとしました。



開始時間が近づき、セミナー会場に集まって来られるお客様も、口々に「きょうは良いお天気で良かったですね。」と言われます。去年のめったに出来ない体験をしっかり覚えてくださっているようですが、今回は、そのインパクトを「楽しかった」に塗り替えられるように気合を入れて頑張りましょう。セミナースタートです。


本日のゲストは、去年と同じ、甲州市役所産業振興課の石原久誠(ひさのぶ)様です。石原さんの自己紹介です。


石原さんは、旧勝沼町〜現甲州市の職員として、20年間行政マンとして働いてきまし
たが、その内18年間はワイン関係の仕事に携わって来られたそうです。積み重ねてきた専門的な経験をふまえた上で、今後の事を考えると、色々な行政の仕事を経験しながら広い視野に立って、側面からワインを支えていきたいと思っているそうです。


又、昨日の「ぶどうまつり」で、中学生がたいまつの聖火を持って山を登り、鳥居に火が点火され、赤々と燃え上がるのを見て非常に感動しました。あの鳥居が燃え続けていく事は、これからもこの地域がぶどうの産地であり続けるという事だと思いますので、高齢化でぶどう畑が減っていくことや、農業熟者が減っていく問題などを、知識と発想力がある職員が解決していかなければならないと、自分に言い聞かせながら鳥居を見ていたそうです。


自己紹介の後は、本日のテーマ「甲州ワインの変遷とこれから」についてです。石原さんのお話です。これから甲州ワインが1970年代からどのように変わってきたかをお話します。

・1970年代 1970年は大阪万博が開かれた年です。当時のワイン市場の中心であった甘味葡萄酒とやや辛口のテーブルワインの比率が逆転した年です。ワインは、食事と共に楽しむものという考え方が広まり、辛口が浸透して来た
年代です。

・1980年代 フレッシュアンドフルーティーでやや甘口(甲州ぶどうの持つ、苦渋みを中和する)であった甲州ワインから、辛口シュール・リーが主流となっていきました。
大手のワイン会社メルシャンで、辛口ワインへの挑戦を始め、1984年にシュール・リーを売り出しました。メルシャンでは、地域の中小ワイナリーへ知識を伝達し、今では辛口甲州の代表的スタイルとなっています。

・1990年代 この頃から、勝沼でメルローやシャルドネなど、ヨーロッパ品種の栽培が本格的に始まり、垣根仕立ての栽培をして、樽を使用するようになりました。カリフォルニアワインの力強さ、パワフルさ華やかさを造り手があこが
れていたのかも知れません。しかし甲州へ樽を使用すると、甲州の様な繊細で穏やかなワインは樽香が付きすぎてしまう。欧州系品種で得たノウハウを甲州種のワイン造りにフィードバックしていたのもこの頃でしょう。

・2000年代 甲州ワインも余剰が出てきて、ワイナリーでも苦戦が続きました。農家も甲州種から他の品種へと切り替えた為、甲州ぶどうが不足しその尊さを知らされました。又、甲州ワインの輸出が始まると、和食と甲州がマッチするというので、
甲州ワインが増産されるようになり、ワイン原料としての甲州ぶどうが足りなくなり、ワイナリーの必要量と供給量の均衡が難しくなってきまし た。この外に2000年代に特記すべき事として、甲州種を見直そうという機運が出てきたことです。甲州種に隠れていた、グレープフルーツや柑橘の香りが見つかり、香りを強調するワインが出てきました。


今は、世界的な傾向として高アルコールより低アルコールが好まれる動きがあり、食事と共に楽しむワインという文化が出てきました。

ここ5年位前から、スパークリングワインの需要が高まってきましたが、機山ワインさんでは、2000年から甲州種でスパークリングワインを造っており、今はデラウエアーのスパークリングワインや、ガス注入方式で飲みやすいワインも出てきています。

・甲州ワインのこれから現在甲州ワインのバリエーションが非常に多くなってきていますが、今は、ワインの造り手の個性に消費者が共鳴し、支持していると言えます。しかしこれからは、栽培家や地域の特徴に留意した方向に向かっていく
のではないでしょうか。地域を冠にした、また生産者を冠にしたワインが出て来ていますので、そういう方向に行くのかなと思います。10年前は、ソムリエの評価主導→現在は造り手主導→これからは消費者、畑主導へと変わっていくと思います。
我々もきちんとした仕組みを作りながら、目標を立てて、しっかりと対応していきたいと思います。

大変興味深いお話でしたね。これからは消費者が甲州ワインを引っ張っていく時代になっていくかもしれない。私達もしっかりとワインを味わっていきたいと思います。

テイスティングです。今回は甲州ワインの変遷の順序で飲んでいきたいと思います。
・かざま甲州 やや甘口 2014 甲斐ワイナリー(株)
グリーンがかった淡いレモンイエロー。少しねっとりした感じあり。レモン、グレープフルーツ、ハーブ、磯の香り、アカシヤのお花、蜜のような香り。豊かな果実味と甘み、しっかりした酸が甘さを引き締めている。甘酸っぱさが爽やかで、優しい味わいのやや甘口の白ワインです。

・ルバイヤート甲州シュール・リー 2014  丸藤葡萄酒(株)
石原さんのお話です。
シュール・リーという醸造法は、原料のぶどうを潰して絞ってジュースにした状態の中に、糖分と酵母を添加します。すると発酵が始まり、酵母が糖分を食べてアルコールに変わるという現象がおきてワインが造られるのですが、役目を終
えた酵母がタンクの下の方に溜まってきます。これをオリと呼びますが、一般的にはオリ引きと言って、発酵が終わるとオリとワインとを分離する作業を行います。シュール・リーの場合は、すぐにオリ引きをせずに、一定期間オリと接触さ
せておきます。日本の自主基準では、3月1日までオリと接触しておき、3月1日〜11月30日までの間にワインとオリを分離した場合に、ラベルに「シュール・リー」と表示することが出来ると決められています。シュール・リーと表示するワイナリーもあれば、表示しないワイナリーもあります。

甲州シュール・リーのお手本になったのは、実は、フランスの銘醸地であるロワール地方で行われていた、ミュスカデ種のシュール・リー製法です。石原さんは今年2月に、ワイナリーの方々とロワールへ研修に行って来られたそうです。そこで感じた事は、
・ロワールでは、日本よりシュール・リーの期間を長くしている。
・酵母は添加しない(天然酵母)。適期を見極めぶどうをベストの状態で収穫しているので、天然酵母でもしっかり発酵するのに驚いた。
・甲州に比べ、香りや味わいが華やかなので、少し飲み疲れしてしまう。
・日本の場合は、爽やかさや適度のキレが食事と合うが、やはりロワールの
シュール・リーはフランス人の口に合うように造られていると感じた。お話を聞いた後すぐにワインを味わうと、オリと接触しておくと何が違うのかとか、この味が和食と合うのかなど、さらに興味を持って味わう事が出来ます。ルバイヤート甲州シュール・リー 2014のテイスティングです。



グリーンがかった淡いレモンイエロー。みかんなどの和柑橘の香り。酵母や食パン、ミネラルの香りなど。アタックは爽やか。豊かな果実味を感じた後、しっかりとした酸を感じる。後半に感じる軽い苦みが旨味に変わり、ふくらみのあるふくよかな味わいでバランスがとれている。最後にスッキリとした酸で口中が爽やかに感じられる。若々しい味わいの辛口白ワインです。

テイスティングの後、皆さんにこのワインは辛口か中口かを尋ねたところ、答えが2つに分かれました。一般的に、シュール・リーは辛口になりますが、ふくよかな味わいが完全なドライではなく、中口と感じられたのかも知れません。
こういう繊細さがダシを使う細やかな和食と良く合うのかなと思いました。

・ハラモ ヴィンテージ 甲州樽熟成 2013 原茂ワイン(株)
石原さんのお話です。
次は樽のお話です。樽の使い方は非常に難しくて、ややもすると果実の香りが樽の香りに負けてしまいます。最近は、新樽よりも1空き・2空きの樽を使って、甲州の繊細さを生かした樽の使い方をしています。1990年代は樽香が強くて果実の香りが負けてしまいましたが、今はしっかりと果実の香りが生かされた使い方がされています。
樽の種類には、フレンチオーク、アメリカンオーク、ロシアンオークなどがありますが、最近では、ダイヤモンド酒造さん紹介のフランス・ブルゴーニュ地方にあるムルソー村のダミー社の樽(フレンチオーク)も使われています。

テイスティングです。
淡いイエロー。前2種類より黄色が濃く、少し落ち着いた色合い。イヨカン、はっさくなどの柑橘の香り、黄りんご、ナッツ、バター、バニラ、白コショウ、スモーキーな香りなど複雑な香り。しっかりとした果実味と程良い酸、後半に旨味が感じられる。上品な樽の香りに包まれた、深みのある味わいの辛口白ワイン。バターを使ったお料理と合わせたいですね。

最後のワインです。
・シトラスセント 甲州 2014   蒼龍葡萄酒(株)
石原さんのお話です。
シトラスセントは、柑橘系の香りを重視したワインです。
@ ぶどうの収穫を香りのピークの時、9月中旬にする。
A ボルドー液を使わない。
B 柑橘系の香りの出やすい酵母を使う。など栽培や醸造上の条件がありますが今年の様に雨の多い年には効果的なボルドー液ですので、今後は味わいの面も含め、多面的な考えで挑戦していくことが必要かと思われます。

テイスティングです。
 透明に近い淡い色合い。少しグリーンが見える。レモンやグレープフルーツ、カボスなどグリーンの柑橘の香りも。又青りんごや白いお花など若々しい香りが豊かに立ち上がってきます。フレッシュな果実味と爽やかな酸のバランスが良く、中盤からの甲州特有の軽い苦みとミネラル感が味わいをひき締めている。
きれいな造りの、爽やかな味わいのやや辛口の白ワインです。

甲州ワインの変遷の順序に添ってのテイスティングが終わりました。




これからは、参加者の皆さんのご意見をお聞きしたいと思います。最近甲州市内の飲食店さんから、甲州市へ来られるお客様は食事をする時、どの様なワインを望んでいるのか知りたいとのお尋ねがありました。早速本日ご参加の皆さんにお聞きしたところ、沢山のご意見をいただきました。

本日テイスティングしたワインをもとに答えていただきました。
A-やや甘口甲州 B-辛口甲州 C-樽熟甲州 D-香りを生かした甲州
Q1 好きなワインは?            A-4 B-4 C-3 D-5
Q2 定食屋さんで飲みたいワインは?     A-0 B-13 C-2 D-1
Q3 焼き肉と合わせたいワインは?      A-2 B-0 C-10 D-1
*焼き肉にレモンをかけると、B・Dに合うという意見あり。     
Q4 ほうとうと合わせたいワインは?     A-4 B-7 C-4 D−0
*マスカットベーリーAに合わせたいという意見あり。

以下は、甲州市で食事をする時(した時)のご意見です。
Q5 食事をする時にワインを注文する人。    5人
Q6 お店に飲みたいワインが無かった。     6人
*ブラッククイーン、甲斐ノワール、スパークリングワインなど
Q7 一升瓶ワインが飲みたい人。        2人
*低価格で良い、大勢でワイワイ飲める。
Q8 ぶどうまつりの後飲食店がみつからなかった。 多数
*イベントやお祭りの時は、遅くまで営業してほしいとの意見多数あり。
沢山のご意見ありがとうございました。



皆さんのご意見に対する石原さんの感想です。
ここにお集まりの皆さんは、ワインが好きな方の視点でのご意見として受け止めました。(色々なバリエーションが欲しい。高価なワインが欲しい。)
ワインは生まれた(生産された)土地で消費されるようになりたいので、観光客向けと地元向けとを考慮した、楽しむ空間作りが必要かと思います。
飲食店でワインが飲みやすくなるように、飲食店向けの価格でワイナリーから出してもらえるようになったらと思います。

一番の課題は、今までワインを飲まれていない方をどう取り込んでいくかという事だと考えています。
輸入ワインについてのご意見がありましたが、ワインの表示について、国税庁が制度改正する予定ですので、日本のワインがもっと消費者に分かり易くなってくると思います。
これからは他産地の追い上げが激しく、甲州市のワインも正念場ではないかと思っています。山梨県では、甲州やマスカットベーリーAの固有種を大切にしながら欧州系を核にして、山梨県産ワインの底力を見せる時かと思います。
消費者の皆さんも山梨県産のワインをごひいきにしていただき、これからも応援していただければと思います。
良い意見を沢山出してくださってありがとうございました。

最後に、今回初参加のお二人の方に、「ワインで乾杯」の音頭をとっていただきました。
・ワインを美味しく飲みました! カンパイ!!
 ・甲州ワイン頑張れ! カンパイ!!


参加者の皆さんと石原さん、みんなが熱く語ったセミナーでした。来年も、再来年も、ずーっと先まで、毎年鳥居が赤々と燃え続いて行きますように!

石原さん、ぶどうまつりの翌日のお忙しい中をご出演くださり、本当に有難うございました。これからも益々ご活躍くださいますよう、応援しております。



ワイン俳句も頑張りました。
・朝市で 口もお腹も 目いっぱい (迷走名人さん)
・天空は青 グラスには 白ワイン (残念!お名前なし)
・甲州 食べても飲んでも さわやか (ねこ太郎さん)
・朝市で ほろよいできる セミナーかな (46Pooh.さん)
・くるくると まわる景色も しばの香り (ののさん)
・空高く 甲州ワインの 値はさがれ (残念!お名前なし)
・昼下がり ほろよい気分で 秋の風 (いしいさん)
・樽がいいね シトラスシュールリー 甘口もいい (かるがもさん)
・甲州ワイン 秋風と共に味わう 果実の風味 (天使さん)
・娘らと ぶどうまつりは 2倍楽し (残念!お名前なし)
・どのワイン のんでもおいし しあわせだ? (あゆみさん)
・秋晴れに おいしいワイン 最高だ (けろさん)
・秋空の もとで熟考 甲州路 (わいさん)
・秋晴れに さわやか甲州で カンパイ (Junさん)
・葡萄棚 車窓に眺め 甲州市 (Kさん)
・勝沼で のみくらべして ちどり足 (紬さん) 



ありがとうございました。次回もどうぞお楽しみに!     篠原