かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第78回 2016.5.1


 参加者

県外1名 県内15名 計16名
講師 篠原シニアワインエキスパート


ゲ ス ト
盛田甲州ワイナリー(株) 矢崎 智一 様


アシスタント
深澤さん、尚枝さん



ワインリスト
・シャンモリ 山梨 甲州 2015 盛田甲州ワイナリー(株)  
・甲州 シュール・リー 2014      〃
・シャンモリ 山梨 限定醸造 マスカット・ベーリーA 2013 〃
・シャンモリ アジロン 2014     〃




セミナーの内容
1 本日のテーマ「シャンモリワインのワイン造り」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について
4 ゲストの「盛田甲州ワイナリー(株)」矢崎様のお話

レポート
5月とはいえ、朝の空気はまだひんやりとしています。朝市会場横のマロニエの街路樹も花房を空に向けてしっとりと咲いています。もうすぐ赤ワインのようなルージュの花びらがいっせいに開いて、満開の美しい姿を見せてくれることでしょう。きょうも爽やかな良いお天気、楽しいワインセミナーになりますように。
ゴールデンウイークの中日ですが、大勢のお客様が来てくださいました。初参加の方も何組かいらっしゃいますので、出来るだけ分かり易くをモットーに早速セミナースタートです。
本日のゲストは、盛田甲州ワイナリー(株)(以下シャンモリワインさん)で醸造を担当されております、矢崎智一様にお越し頂きました。今回で3度目のご登場です。



矢崎さんのお話です。
シャンモリワインの歴史
シャンモリワインの盛田家は、江戸時代中期から、現在の愛知県常滑市小鈴谷(こすがや)で、酒、味噌、醤油の醸造業を営んできた。11代目久左衛門は、明治政府の富国強兵・殖産興業政策に基づく新規事業として、ワイン醸造を行うこととし、明治14年に醸造用ぶどうの植え付けを行った。しかし初めて醸造を行う予定だった明治18年にぶどうの害虫フィロキセラにより、ぶどう園は壊滅状態となり、ワイン造りは頓挫してしまった。代が替わり、14代目の久左衛門の二男盛田和昭(現会長)が会社を引き継ぐと、11代目が果たせなかったワイン造りに再挑戦し、1973年(昭和48年)に勝沼町下岩崎に(株)甲州葡萄酒本舗を設立した。その後平成9年に現在地に新社屋を建設し、平成17年に社名を盛田甲州ワイナリー(株)として現在に至っている。現在の社長は盛田宏です。

勝沼で土屋、高野両青年がフランスから帰国し、本格的なワイン造りが始まったのが明治12年で、ほぼ同時期に愛知県で盛田家がワイン造りに挑戦したとは、本当に驚きですね。

矢崎さんの自己紹介です。
勝沼町出身、現在は山梨市に在住。ワインに携わったのは平成元年で、今年で28年目です。山梨大学認定のワイン科学士取得。シャンモリワインでは、約9年醸造に関わっております。

本日のワインについての説明です。
シャンモリワインでは、地理的表示「山梨」に合わせた造り方を積極的に進めています。

・地理的表示「山梨」について
2013年7月、国税庁はワイン産地としての地理的表示「山梨」を指定した。国がワイン産地の地理的表示を認めるのはこれが初めてで、「山梨」は正式に日本で唯一、法的に認められたワイン産地となった。地理的表示とは、フランスのAC(ワイン法で決められている産地)ボルドーやACブルゴーニュのように、品質の高さや評価がその土地(原産地)からきていると認められた場合にのみ表示することが出来て、国税庁の指定は国際的に通用する。つまり地理的表示「山梨」は国際的なブランドとなり、産地としてのステイタスと同時に、山梨というぶどうの産地を保護する目的もあります。

ラベルに「山梨」とか「YAMANASHI」と記載されているワインは、法律に定められた条件を順守して造られたワインですので、安心して飲んでいただける山梨ワインです。

・では当社がこだわっている地理的表示「山梨」の基準について説明します。


原料ぶどう・・・山梨県産ぶどうを100%使用していること。
ぶどう品種は、甲州種、ヴィニフェラ種(欧州系ワイン専用品種)、その他の品種として、マスカット・ベーリーA、ブラック・クイーン、ベーリー・アリカントA、甲斐ノワール、甲斐ブラン、サンセミヨン、デラウエアに限られている。
ぶどうは健全果であること。最低果汁糖度は、甲州種14.0度以上、ヴィニフェラ種18.0度以上、その他の品種16.0度以上の原料を使用していること。
ただし、気象条件に恵まれない年は1.0度下げる。
醸造・・・山梨県内で醸造、容器詰めしたワインであること。品種を表示する場合は、甲州種については100%使用であること。甲州種以外は、75%以上であること。(近日中に85%以上に変更予定)
アルコール度数は、辛口が8.5%以上、甘口が4.5%以上。
補糖したワインのアルコール度数は、14.5%以下とする。アルコール添加は禁止。
審査・・・まず分析値(比重、アルコール度、エキス分、揮発酸、総亜硫酸)やその他の事項の審査を行う。次に官能検査(テイスティング)を実施し合否を判定する。同じ銘柄のワインであっても審査は瓶詰めのロットごとに行い、ワインの品質は厳格に管理されます。

お待たせしました。それではこの地理的表示「山梨」のワインを飲んでいただきましょう。

・@シャンモリ 山梨 甲州 2015


スタンダードな造りの甲州です。原料ぶどうの産地は山梨県内主に櫛形方面のぶどうが使われ、特にぶどうの酸が残っている状態(少し早め)で収穫しました。この県西部のぶどうは、勝沼のぶどうより酸がシャープで、香りはエステル系のフルーティな香りが多く残る特徴があります。
年間4〜5本のロットで約2万本のワインになるので、その都度地理的表示の審査を受けて合格したものを出しています。誰でも飲みやすく、和食と合わせた時にお料理の邪魔をしない、酸も軽くわずかに残糖分のある造り方をしました。

テイスティングです。
エッジにグリーンの見えるほぼ透明に近い色合い。香りはカボスやレモンなどの柑橘や王林などの黄色いりんご、梨、小さな白いお花などの香り、わずかに磯の香りも感じられます。優しいアタックで、フレッシュな果実の甘味と爽やかな酸味のバランスが良い。後半に和のおダシの様な旨味を感じる。爽やかでいてなおふくよかで丸みのあるやや辛口の白ワインです。ワインの柔らかさが印象的なワインです。

この「シャンモリ山梨甲州2015」は、第3回サクラアワードで「シルバー」を獲得したワインです。サクラアワードは、世界35カ国、3543アイテムのワインを、380人の日本の女性のみのワインプロフェッショナルがブラインドテイスティングにより審査を行ったコンクールです。私篠原も審査員として参加させていただきましたが、味に厳しい日本女性の繊細な感性によって見事「シルバー」に選ばれました。

スタンダードな造り方とは?
甲州ぶどうを除梗破砕してその果汁を発酵させる。発酵を終えた酵母が下に沈んでオリとなる。オリが沈殿した頃合いを見計らって、上澄みのみを別のタンクに移し清澄化して瓶詰する方法です。

・A甲州 シュール・リー 2014

シュール・リーとはフランス語で「オリの上」という意味で、発酵が終わった後5カ月間オリと共に接触させておく醸造法です。スタンダードな造りより手間と時間が掛かりますが、アミノ酸とかエステルの香りが豊かで、又タンク移動をしないのでワインの旨味成分が多く残ってきます。シュール・リーは翌年の6月30日までに瓶詰しなければならないことになっています。

テイスティングです。
エッジにグリーンの見えるほぼ透明に近い色合い。@より少し黄がかっている。テリが美しい。香りはやはりグレープフルーツのような柑橘系の香りと熟した赤いりんごや梨、食パンや酵母のような香り、最後に僅かですがミネラルも感じる。香りの種類は@より複雑。
味わいは、アタックはフレッシュ、若々しい果実の風味としっかりとした酸、後半に軽い苦みを感じるが、それぞれの要素が一体となってまとまっている。アフターの塩味がこのワインに厚みを感じさせる。大きな広がりのあるボディーのしっかりした、インパクトのある辛口白ワインです。

あちらこちらから「おいしい!」「いいね!」の声がかかります。
@ とAの比較テイスティングです。
@ →Aへ A→@へ  同じ甲州でも香りや味わいの違いを感じとることが出来ますね。@は少し甘さを感じさせる可愛い妹で、Aは@を1回りも2回りも大きくしたボリュームのある頼れるお兄さんというイメージです。


日本ワインコンクール(旧国産ワインコンクール)2015金賞ワインA のお兄さんワイン、実は本当に頼りがいのあるお兄さんだったのです。
甲州シュール・リー 2014 盛田甲州ワイナリー(株)
は、最新の日本ワインコンクール(2015)で、甲州辛口部門において、部門最高賞、金賞、コストパフォーマンス賞の3つの賞を獲得したワインなのです。ボトルにはこの賞を表す3つのメダルが貼られていますね。見事です!!

明治初期日本のワインの黎明期に、愛知県でワイン醸造にチャレンジされ、収穫目前にして栽培技術未開発の為挫折、その後ワインの本場勝沼でその子孫によるリベンジで遂に日本一になったシャンモリワインさん。先達の方のチャレンジ精神が今も受け継がれ見事に開花されたのだと思います。本当におめでとうございます。

矢崎さんのおはなしです。
当社では、除梗破砕後のぶどうは65%〜68%位が圧力を加えないフリー果汁で、残りは15%位圧力を加えてプレス果汁とします。甲州シュール・リーはフリー果汁のみを使用しています。又、プレス果汁は、昔ながらの造りの甲州の製品に使用しています。清澄については、まず果汁を絞った段階で清澄を行い、果肉や種などを沈殿させてきれいな上澄みのみを発酵させています。特に清澄剤は使いません。

・B シャンモリ 山梨 限定醸造 マスカット・ベーリーA 2013


地理的表示「山梨」の審査を受けたワインです。穂坂町の町名を表記してありますが、穂坂のマスカット・ベーリーAを85%、甲州市のぶどうを15%使用しています。醸造方法ですが、マスカット・ベーリーAのぶどうを醸しタンクに入れて2週間発酵させます。皮ごと入れて色素やタンニンを抽出し、当社の基準の色合いになったら搾汁をして、再度発酵タンクに入れます。酵母と糖分を加え後発酵を行い、発酵が終了したところでタルに入れて1年〜1年半熟成させます。聞き慣れない「後発酵」という言葉に皆さんの関心が集まりました。

テイスティングです。
 やや紫がかった美しいルビー色。香りのボリュームは大きく、完熟したストロベリーやバニラ、僅かにスパイス、スワリングするとぶどう由来のキャンディーや綿菓子の様な甘い香りが立ち上がる。豊かな果実の風味と溶け込んでいる酸、きめが細かくきれいなタンニンだがしっかり主張している。このタンニンニよって骨格が作られている。華やかな香りに負けない豊かな味わいのミディアムボディの赤ワインです。

続いて最後のワインです。

・C シャンモリ アジロン 2014


幻のぶどうと言われているアジロン(=アジロンダック)のワイン。山梨県産と表記されていますが、大部分は勝沼の契約農家のぶどうを使っています。フレッシュな味わいを生かす為、タル熟成はしていない。「ジュースのような味がする」の声あり。このワインは昔から飲まれていたぶどうジュースの香りがすることから、発酵を途中で止めて甘口にしてあります。ですからアルコール度数も10%と低くなっています。

テイスティングです。
やや淡目の明るい色調のルビー・ルージュ。ぶどう由来の甘さを感じさせる香りだが、その中にミントやハーブなどのスーっとする香りを感じる。チェリー、ストロベリー、アセロラなどの香り。味わいはまず果実の甘み、爽やかな酸を感じ、心地良いタンニンがコクを出している。最後に残糖の甘さが残る。スッキリとした甘さの軽やかな味わいのライトボディの赤ワインです。                         

Bのマスカット・ベーリーAとCのアジロンを比較しました。それぞれを別の時に飲むと同じような甘い香りで区別がつきにくいですが、今日の様に同時に飲み比べるとその違いがはっきりわかりとてもおもしろい比較になりました。


矢崎さんのお話です。
当社では2014年からワインを地区ごとまたは畑ごとに発酵させ、それをブレンドして最高の味わいを造りだすことを目指しています。単一よりブレンドの方が、香りが引き立ったり味わいに複雑味が増すという不思議な現象があります。有名なフランスのシャンパーニュ地方のアッサンブラージュ(=ブレンド)の技術を参考にしながらブレンドに取り組んでいます。

トツトツと穏やかな口調で話される矢崎さんですが、そのお話から非常に真摯にワインと向き合っている様子がうかがわれます。その土地で育ったぶどうの特徴を出来る限り生かしてワインに反映させたいとする反面、先進地の醸造技術を参考にブレンドの良さも取り入れたワイン造りにもチャレンジしているということですので、これからのシャンモリワインが益々楽しみです。

昨年8月の日本ワインコンクール発表直後に、何としてもこの金賞ワインを手に入れてかつぬま朝市ワインセミナーで皆さんに味わっていただきたいと必死で確保した(笑)ワインでした。念願かなって造り手のお話をお聞きしながら、ワインを味わい受賞の喜びを分かち合うことが出来て本当に嬉しかったです。
矢崎さん、連日遅くまでお仕事されている中をご来場くださり、本当に有難うございました。皆さん大喜びでした。またこの会場でお会いできるのを楽しみにしております。

いよいよワイン俳句の番ですが、今回は時間が無くなってしまい会場で発表できませんでした。スミマセン。このレポートで楽しんでください。6月のセミナーも是非ご期待くださいね。  篠原


ワイン俳句
奥深い ワインの世界 楽しもう ばやちゃんさん
かつぬまの 風にふかれて シュール・リー tama no hasuさん
山梨の 地理的表示は 美味しいワイン ドラさん
コンクールの シールをみると 尚美味しい ミッフィ さん
気候良いし 飲んだことない 甲州ワイン カラカラさん
五月晴れ ほろよい気分で ワイン知る Miさん
かいた芽を 天ぷらにして 舌鼓 Kさん
シャンモリの つつじと楽しむ ワイン会 みのじさん
五月晴れ 味もさわやか シュール・リー コタロウさん
風薫る ワインも香る 五月かな ボッチさん
どうしよう 全くわからん けど美味しい 小春さん
五月(ごがつ)晴れ 秋のワインを 楽しみに あまさん




以上です。  ありがとうございました。