かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第81回 2016.8.7

   参加者 県外2名  県内11名  計13名
講師 篠原シニアワインエキスパート
ゲスト 弁護士・シニアワインエキスパート  東條 正人様
 


アシスタント  尚枝さん


ワインリスト

1.今様 ドサージュ・ゼロ 2013 マンズワイン(株)
2.山ソービニヨン 2014 シャトー・ジュン(株)
3.雁坂の夢 2013 三養醸造(株)
4.カンティーナ・ヒロ フェリチッシモ 赤 樽熟成 2015 (株)東夢 



セミナーの内容

1 本日のテーマ「ヤマソービニオンってどんなワイン?」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について
4 ゲストの 弁護士・シニアワインエキスパートの東條正人様のお話

レポート
梅雨が明けました。甲州市ではどちらかと言えば少なめの雨量でしたが、梅雨明けと同時に連日猛暑が続いています。今日も37度超えの予報が出ています。猛暑とアルコールによる熱中症対策として氷を一杯入れた冷水タンクをご用意しました。参加者の皆さんにまずお水を飲んでいただいて、ワインセミナースタートです。

今回のゲストは、甲府市で弁護士をされているシニアワインエキスパートの東條正人様です。東條さんと私篠原とは、その昔甲府のワインスクールでお目に掛かって以来のお友達ですので、15年以上のワインのお付き合いをさせていただいています。日本ソムリエ協会のワインの資格であります、ワインエキスパートとシニアワインエキスパートの資格取得についても、東條さんが取得されたのを聞いて私も後を追いかけて勉強をして取得したといういきさつがあります。ワインの先輩のお話、とても楽しみです。
 

東條さんのお話です。
私がワインにはまったのは、1998年頃のこと。友人に誘われて甲府のあるバーで南フランスのワインを飲んで、初めてワインは美味しい飲み物だと実感しました。
それ以前はもっぱら焼酎や日本酒を飲んでいました。その翌年のこと、たまたま見ていたワイン雑誌「ヴィノテーク」にワイン産地のフランス旅行の募集があり、怖いもの知らずに応募したところ当選。「ヴィノテーク」主宰の有坂さんの計らいで、ボルドー格付け1級シャトー・マルゴーのお館にて10ヴィンテージの垂直テイスティング(同一ワインのヴィンテージ違いの飲み比べ)をする機会に恵まれました。
まだワインの事はほとんど理解出来ていない頃でしたが、分からないながらもその魅力にすっかりはまり込み、ワインの勉強をしようと思い立ちました。
2003年に日本ソムリエ協会のワインエキスパート、2009年にシニアワインエキスパ―トを取得し、そのほかに英米のワインの資格にチャレンジして現在に至っています。

今回ヤマソービニオンを選んだ理由
・今までこのワインセミナーで取り上げなかった品種と聞いて。
・この品種の開発者である山梨大学の山川教授の成果と思いを皆さんに伝えたい。
という理由からです。


ヤマソービニオン
ヤマソービニオンは、1990年に山梨大学の農学博士・山川祥秀教授が、日本の気候風土に適応でき、また、病害虫への耐性のある品種として開発された、日本固有の赤ワイン用ぶどう品種です。日本古来のヤマブドウとヨーロッパ系ワイン専用品種のカベルネ・ソーヴィニヨンを掛け合わせてできた交雑品種です。ヤマブドウ(ヴィティス・コワニティー)が母親(めしべ親)で、カベルネ・ソーヴィニヨン(ヴィティス・ヴィニフェラ)が父親(おしべ親)という掛け合わせです。
ヤマブドウ自体は雌雄異株でかつ開花が極めて早いので、掛け合わせるカベルネ・ソーヴィニヨンの花粉が間に合わない。そこで開花の遅い山奥の御坂の旧道の丘陵地に自生するヤマブドウに目をつけ、カべルネ・ソーヴィニヨンの開花のタイミングに合わせて受粉させたというものです。その後も良いものだけを淘汰選抜を繰り返し13年かけて雌雄同株になるヤマソービニオンを開発したという、気の遠くなるような山川先生のご努力の成果です。「ヤマソービニオン」の表記が種苗登録された品種名です。山川のヤマか山梨大学のヤマかという話がありましたが、単にヤマブドウからとったそうです。


1番目のワインのテイスティングです。
今様(いまよう) ドサージュ・ゼロ 2013 マンズワイン(株)

俳優の辰巳琢郎氏プロデュースのスパークリングワイン。山梨県産甲州80%と岩手県産ヤマブドウ20%を使用。暑いのでまずは泡から。甲州とヤマブドウというもっとも日本らしい2品種をブレンドしたものです。キューヴ・クローズ(タンク内二次発酵・シャルマともいう)方式。スティルワインを加圧した密閉タンクに入れ、酵母・てんさい糖(北海道の砂糖大根)を入れてタンク内で二次発酵させる。フィルターにかけてボトリングします。ドサージュ・ゼロとは瓶詰前の最終的な甘味調整なしの事。
外観は、落ち着いた淡いさくら色。泡の出方は、シャンパーニュなどの瓶内二次発酵がキメの細かいゆっくり立ち上がる泡に比べて、タンク内二次なので少し大きめの泡がアグレッシブに立ち上がります。香りは、赤スグリや木いちごなどの赤系果実の香りと干し草など野性味のある香り。
味わいは、アタックは爽やか。優しい果実味と厚みのあるしっかりした酸、程良いタンニン。全体的に甲州の柔らかさ・繊細さの中に野生的な強さが包みこまれているような味わいのロゼのスパークリングワイン。しっかり冷やしてランチと合わせたい。ここで東條さんより「ぶどう」について説明がありました。
1億4000万年前にぶどうの祖先が地球に現れ、7万年前に氷河期が始まりほとんどのぶどうが絶滅しましたが、1万年前に氷河期が終わったときに生き残ったぶどうがあり、それらの野生ぶどうが各地で発展を遂げます。ぶどうの系統には何種類かありますが、その一部に次のものがあります。
・ヴィティス・ヴィニフェラ・・・ヨーロッパブドウ。ヨーロッパに自生するワイン用の種。湿度が少なくアルカリ性土壌に適する。カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなど。
・ヴィティス・ラブルスカ・・・アメリカのブドウ。冷涼で雨の多いところにも適応できる。コンコードやナイヤガラなど。ファンタやウェルチなどのグレープジュースの香りが特徴。(フォーキシー・フレーバーという)
・ヴィティス・コワニティー・・・日本のヤマブドウ。日本各地に縄文弥生の頃から自生している。日本の土壌に長期間かけて適合してきたものなので、雨に強く、酸性土壌に適す。栽培する際にほとんど農薬も不要。フランスの女性コワニティ夫人が日本にいるときにこのヤマブドウから造られたワインを飲んでおいしかったのでフランスに持ち帰ったことから命名された。

甲州ぶどうのルーツについて
カスピ海沿岸原産のヴィティス・ヴィニフェラ種のぶどうが、中国のシルクロードを通って、長い年月をかけて日本にたどり着く間に、中国の棘ブドウ(ヴィティス・ダビディ)と交雑し、もう一度ヴイティス・ヴィニフェラと交雑したと考えられています。おばあさんが棘ブドウということになります。
甲州種のDNAは、つい最近研究により判明し、V.ヴィニフェラ71.5%、V.ダビディ28.5%から成り立っています。

おまけにもうひとつ。
明治3年、日本で初めてワインを醸造したと言われているのは、甲府の山田宥教(ひろのり)、宅間憲久の両氏というのは有名な話ですが、この時造られたのは白が甲州種、赤がヤマブドウと言われています。ヤマブドウでワインが造られるほど甲府近辺の山地にはヤマブドウが自生していたのかも知れません。二人の共同醸造所があったのは、甲府市広庭町(現甲府市武田)の山田氏の実家の真言密教大応院ですが、現在大応院というお寺は見つかっていません。
 
うーん何とも奥深いお話ですね!

2番目のワインのお話です。
山ソービニヨン  2014 シャトー・ジュン(株)

2014ヴィンテージは、シャトー・ジュンさんがヤマソービニオンでワインを造り始めて3年目のワインです。毎回造り方を変えてこの品種に最も適した醸造法を確立したいと考えているそうです。北杜市長坂町で垣根栽培したヤマソービニオン100%使用。

外観はエッジにやや赤色の見える中程度のルビー色。軽めのろ過と思われる。香りは赤系の果実、赤スグリ、フランボワーズ、干し草、土っぽい根菜類の香りなど。味わいはアタックはまろやか。優しい果実味を感じた後、ヤマソービニオン特有のしっかりした酸と程良いタンニンを感じる。後半にミネラル感あり。各要素が一つにまとまってふくよかな味わいになっているミディアムボディの赤ワインです。

シャトー・ジュンさんの「山ソービニヨン」については、東條さんには忘れられないエピソードがあるそうです。
何年か前、山川先生からヤマソービニオンのお話を聞いた後、どうしても交配させたヤマブドウの実物を見たいと思い、友人とともに話にあった御坂峠の旧道のトンネル付近の斜面に出かけて行きました。沢山収穫した場合を考え大きな箱を用意し、意気揚々と出かけたのです。しかし現地に着いていくら捜してもヤマブドウは見つかりません。ぶどうのつるの様なものを少し発見しただけでした。がっかりして帰る途中、折角なのでワイナリーに寄って行こうと思い、勝沼のシャトー・ジュンさんに寄ったのです。ワイナリーの前にはぶどうを積んだトラックがいて、とても忙しそうでした。でも私の目はトラックの荷台のぶどうに釘付けになり、聞かずにはいられませんでした。「このぶどうは何ですか?」「ヤマソービニオンだよ」「えーっ!!」なんという偶然!北杜市長坂町のヤマソービニオンの栽培農家さんが、ちょうどワイン原料のぶどうを納めに来た所に来合わせたのでした。写真を撮らせてもらったり、何房かわけていただいたりして、お話も聞かせてもらって大収穫でした。

その時の写真を参加者の皆さんも見せていただきました。今飲んでいるワインの原料の写真と東條さんの愉快なエピソードで、ヤマブドウやヤマソービニオンがいっぺんに親しみを感じるぶどうになったと思います。東條さんのお話がおもしろくてなかなか前へ進めません。少しペースを上げなければ(篠原のひとりごと)

3番目のワインです。
雁坂の夢 2013 三養醸造(株)

東條さんのお話です。山梨市牧丘にある、昭和8年創業の老舗ワイナリー。このセミナーの下調べに篠原さんとワイナリーを訪問した際に、個性的な若主人がいると聞いてきましたが、なんのなんのとても気持の良い優しい方でした。まずは、甲州、マスカット・ベーリーA、シャルドネの畑を案内していただきました。除草剤は40年近く使用していないそうです。ぶどうに出来るだけ負担をかけない自然な栽培方法で、収量制限もしっかりしていると思いました。その後、セラーで説明を聞きながらテイスティングをさせていただきました。まだ未発売のワインのマル秘バレルテイスティングも。

山梨市三富の標高800メートルの高地で栽培したヤマソービニオン100%使用。外観は、輝き透明感のある少し赤色がかったやや淡めのルビー色。香りは、少し煮詰めた赤系果実の香り。プルーン、甘草、干し草、土、インク、バターの香り。味わいは、アタックはなめらか。完熟果実のしっかりした甘みとシャープな酸、こなれている中程度のタンニン。全体的にボリュームのあるミディアムボディの赤ワインです。

ここで予定外ですが参考までに仕入れてきた雁坂の夢 2009年 三養醸造(株)を皆さんに振る舞いました。熟成によるワインの変化をみるためです。

外観:オレンジがかった淡めのガーネット色。
香り:ドライフラワー、ドライフルーツ、鉄さび(鉄っぽい香りがさらに熟成した
時の香り)、濡れた枯葉などの熟成香。
味わい:果実味、酸味、タンニン共に落ち着いてきており、熟成した味わい。

普段熟成したワインは飲む機会が少ないので、東條さんから色・香り・味わいについて熟成ワインの表現の仕方について教えていただきました。2013年と2009年のおもしろい比較になりました。

最後のワインです。
カンティーナ・ヒロ フェリチッシモ 赤 樽熟成 2015 (株)東夢

東條さんのお話です。山梨市牧丘産ヤマソービニオン100%使用。山梨市牧丘にあるワイナリーで創業年2014年です(ワイン販売開始年)。現在は貯蔵庫とテイスティングルームが出来上がっていますが、醸造施設は今秋に建設予定の新しいワイナリーです。販売しているワインはヒロさんのところで作ったぶどうを(株)東夢さんに持ち込み、委託醸造してもらったワイン。カンティーナとはイタリア語で、自家農園で生産したぶどうを原料に醸造するワイナリーのこと。フランスのドメーヌと同じ意味。フェリチッシモとはシリーズの名称でイタリア語で最高に幸せの意味です。
今回のセミナーの下準備の為、三養醸造さんでカンティーナ・ヒロさんへの行き方をお聞きしたところ、三養さんの若主人がわざわざ連れて行ってくださいました。有難かったです。カンティーナ・ヒロさんは標高700メートル以上の高地にあり眺望も素晴らしいです。非常にポジティブな印象の広瀬武彦氏から説明していただいたお話をしながら、個性的なワインを早速皆さんに飲んでいただきましょう。

テイスティングです。
外観は、紫がかった若々しい非常に濃いルビー色。ワインの足が長く粘性がある。香りは、ブラックベリー、ブラックチェリー、完熟したプルーン、甘草、カシス、ミント、オークなど複雑な香り。味わいは、アタックは強い。完熟した果実の甘みが強くインパクトがある。酸味は強いが果実の甘みに包まれている。若々しく収れん味のあるタンニン。飲み込んだ後、口中が熱くアルコールの強さを感じる。余韻が長い。全体的に若々しく力強くスケールの大きい、フルボディの赤ワイン。長期熟成させて飲みたいワインです。

広瀬さんは元IT企業に勤務していて、リタイヤして牧丘の実家のぶどう栽培を引き継いだそうです。実家に戻ってすぐ、近くの畑の持ち主からワイン用ぶどうのヤマソービニオンを植えたがうまく出来ないので作って欲しいと引き渡されたので、それがきっかけとなってワインを造ろうと思い立ったそうです。
広瀬さんは非常にこだわりを持ってぶどうを栽培しています。低農薬(農薬は基本的に年1回のみ)、不耕起草生栽培、自家で生成する完全発酵した有機堆肥による土づくりなどです。自信を持ってぶどう作りをされていることが伝わってきました。

テイスティングしたヤマソービニオンは2015年のぶどうの糖度が28.3%、アルコール度数が15.2%、無補糖、無補酸だそうです。全く驚きの糖度ですね。会場の皆さんからも口の中が熱い! すごいアルコールが高い!などの声が聞こえます。

朝市会場の気温もだいぶ上がってきました。
暑い季節、濃い赤ワインのヤマソービニオンは少し重たいかなと思って皆さんにお聞きしたところ、美味しいと返事が戻ってきました。そうは言ってもくれぐれも飲みすぎと熱中症には気を付けてと祈るばかりです。

猛暑の中、東條さんのワインにかける熱い思いと中身の濃いお話、そして熱いワイン、体の内も外も本当にアツいセミナーでしたが、またたく間に時間が過ぎてしまいました。

東條さんお忙しい中をおいでくださり、楽しいお話を有難うございました。参加者の皆さんは今まであまり馴染みのなかったヤマブドウやヤマソービニオンのワインが身近になって、ワインショップで見かけたらきっと手に取ってくださると
思います。また是非お話を聞かせてください。ご活躍を期待しております。

では皆さん次回もお楽しみに! 篠原




お待ちかねのワイン俳句です
猛暑の講座 ワインの香りに 秋の風 ノムリエール・マミコさん
ヤマソービニオン 夏に飲むのも またうまし なおさん
濃いヤマソー 我が人生も 濃く強く!! 枠のなおさん
英語でワイン? 英語はダメだし ワインもイマイチ・・・。 ひつじさん
東條先生 頭もお腹も 飽和状態です!! ミッフィさん
えび色の グラスに残る 赤インク のぼさん
山ぶどう 歴史ふかけりゃ 奥も深い Mayuさん
初心者には English? 赤ワイン 奥深し  ヒーコさん
夏の陽を 浴びて色付く 葡萄の実 Kさん
17年 ヤマソービニオン 努力あり あゆどんさん
赤ワイン 山ぶどう色の バイオレット としさん
暑い日に ヤマソー飲むも また楽し ドラさん
赤色の グラスに溶ける 夏の濃さ もふさん
 


以上です。ありがとうございました