かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第82回 2016.9.4
 
参加者 県外4名 県内7名 計11名

講師 篠原シニアワインエキスパート 

ゲスト メルシャン(株) 真杉茂央様


アシスタント 尚枝さん

ワインリスト
・シャトー・メルシャン 甲州きいろ香 2015      メルシャン(株)
・日本の地ワイン 国中マスカット・ベーリーA ロゼ 2014  〃   
・シャトー・メルシャン プティ・ヴェルド キュヴェ・タンザワ2013 〃
・シャトー・メルシャン 甲州 スペシャル 2015 メルシャン(株)

セミナーの内容
1 本日のテーマ「勝沼とシャトー・メルシャン」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について
4 ゲストのメルシャン(株) 真杉 茂央様のお話 

レポート
今年は何時になく台風が次から次へと発生し、各地に大きな被害をもたらしています。なかには北から南へ下った台風がユーターンして北上し、日本列島を縦断するという様な変則台風もやって来ています。今日もいつ雨が降ってもおかしくない天気予報で気がもめます。うす紫に色づいてきた甲州ぶどうに影響がありませんようにと祈りながら、82回目のワインセミナーのスタートです。

まず私篠原からセミナーの内容の説明です。


本日のテーマは「勝沼とシャトー・メルシャン」と題して、メルシャンさんの3本のワインを試飲しながら、ゲストの真杉様にお話をしていただきます。このセミナーには2回目のご登場です。
もちろん皆さんお待ちかね?のワイン俳句もありますので、ご期待ください。
それでは、ゲストの真杉様にバトンタッチです。

真杉さんのお話です。

私は現在シャトー・メルシャンのビジターセンターに所属しています。ワインギャラリーの前に甲州ぶどうの棚と広場の横に垣根栽培のぶどう畑がありますが、その栽培もしています。メルシャンに勤務して30年余りですが、そのほとんどを営業マンとしてワインを売ってきました。

私が入社した頃はまだまだ日本ではワインの普及率は低く、30軒の酒屋さんを回っても話を聞いてくれるお店はたったの5軒、あとは門前払いでした。5軒の内注文を貰えるのは大体2〜3軒で、注文してくれるワインの本数は約10本位、その内訳は白が6本赤が3本ロゼが1本位の割合でした。これだけあれば酒屋さんは2〜3か月は大丈夫という時代だったのです。

アルコール飲料の消費量は、ビール、清酒、ウイスキー、ワインの順で、ワインは僅か1〜2%位しか飲まれていませんでした。早くワインがウイスキーを追い抜いて欲しい、自分が現役の内にそういう時代が来れば良いと思っていましたら、思いの外あっと言う間にやって来たのには驚きました。

〜ワインが一般に普及し出したのは、まだ20〜30年位前の事なのですね。新しい物を世の中に広めていった当時の営業マンのご苦労が偲ばれるお話です。〜

今日のテーマが「勝沼とシャトー・メルシャン」ですので、少しメルシャンの歴史をお話します。


1877年(明治10年)に日本で初めての民間のワイン会社「大日本山梨葡萄酒会社」が勝沼に設立されましたが、この会社がメルシャンのルーツになります。

明治の初め、政府が国策としてワイン造りを奨励し、日本各地に国営の農場を設置してぶどう栽培を行いましたが、どこも成功せず頓挫してしまいました。そのような中でここ勝沼では千年以上前からぶどうが栽培され、国営ではなく民間主導でワイン造りが行われていました。これが日本のワイン造りで特徴的な事でした。

勝沼では昔からぶどうは食べる為の果物として栽培されてきたので、当時ワインの醸造技術は未熟であった為、「大日本山梨葡萄酒会社」は明治10年に岩崎在住の土屋、高野の2人の青年をフランスに派遣し醸造技術を習得させました。2人が帰国して技術を広めた事によって勝沼で本格的なワイン造りが始まったのです。こういう会社をルーツにしているので、「日本のワインづくりひとすじ、シャトー・メルシャン」としてお話をさせていただきました。

〜土屋、高野両青年のシルエットは勝沼のシンボルマークとして、交通の案内板、観光名所のサイン、ワイングラスのデザインなどに用いられていますので、あちらこちらで見かけることが出来ますね。〜

メルシャンでは「日本のぶどうで世界に通用するワイン」を目標にワイン造りを進めて来ましたが、またその一方で本格的な欧州系醸造用専用品種に着目し、1976年に長野県塩尻市桔梗が原にメルローを、また1984年に勝沼の城の平に自社畑を所有しカベルネ・ソーヴィニヨンを導入し栽培を始めました。ぶどうの栽培期には湿度の高い日本では棚栽培が主流でしたが、城の平のカベルネ・ソーヴィニヨンは垣根栽培を採用し、そのデータを地域に公開しました。更にメルシャンの社員がフランスやカリフォルニアに研修に行って得てきた成果を定期的に地域に公開し、地域と共にワインの産地形成を行ってきました。

甲州ワインの開発について
甲州種は香りや味わいに特徴の少ないぶどうと言われてきましたが、メルシャンでは1976年に勝沼ブラン・ド・ブランというフレッシュでフルーティーなワインを開発しました。1979年には甲州鳥居平の極甘口ワインを、1984年には辛口の甲州シュール・リーを開発しました。
シュール・リー製法はフランスロワール地方のミュスカデ・シュール・リーを参考にして開発され、甲州にフレッシュさと力強さを与えました。
このシュール・リー製法は甲州の醸造法としては画期的なものでしたが、時の工場長の浅井宇介が地域のワイン産業の発展の為にとその情報を公開したのです。現在では甲州シュール・リーは辛口甲州の代名詞になっています。

昨年浅井宇介氏の13回忌がこのシャトー・メルシャンで行われましたが、勝沼のほとんどのワイナリーさんが参加してくれました。当社がこの地域の他のワイナリーさんと仲良くやっていけるのは、やはり浅井氏の尽力によるところが大きいと思います。
シャトー・メルシャンの歴史はこの位にして、ここからはテイスティングに入ります。

@ シャトー・メルシャン 甲州きいろ香 2015


香りが少ないと言われていた甲州種から、偶然にも発見されたソーヴィニヨン・ブランの香りを追求した結果出来上がったワインです。
ファーストヴィンテージの2004年が翌年の2005年に発売されて、あっという間に売り切れてしまったという、当時非常に話題に上がったワインです。


甲州ぶどうの中にある柑橘系の香りを最大限に引き出したそのメカニズムは、・ぶどうの収穫時期
 一般的には甲州は10月初〜中旬に収穫しますが、この「きいろ香」のぶどうは9月中に収穫しました。ぶどうの糖度は8月頃から徐々にゆっくり上昇し、10月の初〜中旬に最高に達するのに対し、香りの成分は9月の中旬をピークに一気に下降していく事が分かりました。

今迄は香りの成分が落ちてしまった時期に収穫していたので、甲州ぶどうは香りが少ないと言われてきましたが、この「きいろ香」は香りの成分がピークに達した時に収穫されているので、柑橘の香りが華やかに出てきます。では糖度はどうかといいますと、10月のピーク時よりいくらか低めですが、徐々に上がって来た糖度ですので、9月の中旬には充分に糖が確保されているのです。


・ボルドー液の散布を控える
ぶどうの病気の防除には効果的なボルドー液ですが、その成分は硫酸銅と生石灰と水から成っており、この銅の成分がワインの香りを消してしまう事が分かりました。
ここで実験をしましょう。「きいろ香」のグラスのなかに10円硬貨を入れてみました。しばらく経つと先程まで華やかに香っていた柑橘の香りが消えてしまいました。皆さんこのグラスを順に回して香りを嗅いでください。

〜「本当に香りが消えた。」「不思議?」の声あり。〜

この「甲州きいろ香」は世界でも日本を代表するワインとして認められ、「ザ・ワールド アトラス オブ ワイン」という書籍の日本の欄にラベルが掲載されています。

もうひとつ「甲州きいろ香」を語る上で、忘れてはならない方がいます。ボルドー大学でワインの香りを研究していた富永敬俊(たかとし)教授です。当社の社員であった味村が、偶然見つけた特徴的な香りのする甲州ぶどうを富永教授に送って調べてもらったところ、この甲州ぶどうからソーヴィニヨン・ブランに含まれる柑橘の香りが発見されたのです。興味のある方は富永教授の著書「きいろの香り」を読まれると良いとおもいます。このワインの名前の「きいろ香」は富永教授のペットであった小鳥「きいろちゃん」から付けられたものです。
本日のワイン2015ヴィンテージからコルクではなくスクリューキャップが採用されています。

どうぞゆっくりと柑橘の香りをお楽しみください。



引き続き2番目のワインのお話に移ります。
A 日本の地ワイン 国中マスカット・ベーリーA ロゼ 2014


普段ご家庭で楽しみやすい500ミリリットルのボトルです。これもスクリューキャップです。国中(くになか)地方の主に笛吹市、甲府市、山梨市で栽培されたマスカット・ベーリーAを使用しています。ロゼワインはまだまだ日本では赤や白ワインに比べて消費量が少ないですが、フランスの特にプロヴァンス地方では、ワインショップのワインのほとんどがロゼという位盛んに飲まれているそうです。夏のヴァカンスの時に、冷やしたロゼは最高です。

このマスカット・ベーリーA ロゼはキャンディーの様な甘い香りがしますが、酸がしっかりしているので、お肉でもお魚でもオールマイティーにお食事全般と合わせられます。是非ご家庭でお楽しみください。

3番目のワインです。
B シャトー・メルシャン プティ・ヴェルド キュヴェ・タンザワ 2013


甲府盆地の最南端に位置する市川三郷町の丹澤園(旧三珠町)のプティ・ヴェルドで、2013が初ヴィンテージで、今回初めてリリースされました。
プティ・ヴェルドはボルドー地方の黒ぶどうの品種の1つで、補助品種として使われることが多いです。特徴は、実が熟すのが遅い、色が濃い、酸味とタンニンに富んでいるなどがあげられますが、近年勝沼でもこの品種から素晴らしいワインが造られ注目されている品種です。
丹澤園ではこのプティ・ヴェルドを、棚栽培の一文字短梢仕立てと言う方法で栽培しています。日本では棚栽培の場合は、一般的に枝を四方に張り巡らせる]字長梢仕立てが多いですが、複雑な難しい剪定方法です。それに比べ一文字短梢の剪定方法は、苗木を植えた時に一旦一文字に仕立てると、一列に毎年同じ位置に実を付けるので剪定や管理が簡単で作業の効率の良い栽培方法です。収穫量も]字仕立てとほぼ変わらないそうです。

テイスティングです。
〜エッジに紫のみえる濃いルビー色。黒系の果実のブラックベリー、ブラックチェリーの香り。プルーン、チョコレート、バニラ、スパイスなどやや複雑な香り。しっかりとした果実の風味と酸、若々しく豊かなタンニン。それぞれの要素がまとまって凝縮感のあるボディをつくっている。まろやかな味わいのフルボディの赤ワインです。まだ若いぶどうの木のプティ・ヴェルドですがこれから期待の持てる、また熟成したヴンテージも飲んでみたいワインですね。〜


真杉さんのお話が終わりました。
実は今日は先程の3種類のワインの外に、真杉さんからのプレゼントワインを味わうことが出来ました。

真杉さんが栽培に関わった、ご自身にとっても思い入れのあるワインだそうですが、お話を聞きながら味わうワインは、真杉さんのお人柄のように優しい味わいがしました。

今日は、勝沼のいや日本のワインをリードしてくださっているメルシャンさんのワインのお話のほんの一部でしたが、聞く事が出来ました。自社の発展と同時に常に地域と連携して産地形成を図っていこうという会社の姿勢に感銘を受け、またより身近に感じられるワイナリーになりました。

勝沼の、9月・10月は観光のお客様が最も多い季節です。メルシャンさんのビジターセンターもきっとワインを求めて大勢のお客様が来られているでしょう。そんなお忙しい中をこのワインセミナーの為にご出演くださいまして本当に感謝しております。
真杉さん本当に有難うございました。


最後に大急ぎで皆さんと記念撮影をして、本日のかつぬま朝市ワインセミナーの終了です。
次回はぶどうまつりの翌日です。くれぐれも飲みすぎにご注意を!!  篠原



ワイン俳句 (きのうは日本ワインコンクールの公開テイスティングの日でした)
秋風に 吹かれて甲州の 奥を知る  みわさん
秋が来て 露地物葡萄 店に出て  kさん
真杉氏の 愛を感じる プレゼントワイン  なおさん
甲州の 収穫の頃は 俺死にそう(忙しい・・よね)  原どんとこいさん
雨降らず 暑くもなくて ついている  カルガモさん
勝沼の 朝市セミナー むかえ酒  わだみさん
薄紅の グラスの向こう 夏の空  ひめさん
さわやかに 今日も比べる 二日酔い  カリニャンさん
炎天に きいろ香ワイン 初試飲  ぶどう娘さん
まだまだと 知識が入る 朝市セミナー  字あまりさん
ますぎさん 楽しいお話 ありがとう  アプリコットさん