かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第86回     2017.5.7


参加者  県外2名  県内15名  計17名
講師  篠原シニアワインエキスパート 
ゲスト  共栄堂ワイン   醸造家  小林 剛士 様


アシスタント  深澤さん、尚枝さん

ワインリスト
・共栄堂ワイン K16 FY_AK 三養醸造(株)
・  〃   K16 FY_DD   〃
・  〃   K16 HR_DD スパークリング   〃
・ブーケ 2015 Revigneron(レヴィニョロン) 四恩醸造(株)


セミナーの内容
1 本日のテーマ「共栄堂の初ヴィンテージを味わう」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について
4 ゲストの小林剛士様のお話


レポート
5月、ぶどうの芽が出て展葉が始まりました。例年より少し遅い感じですが、まずまず順調です。今日はゴールデンウイーク最後の日にも関わらず、朝市会場も我がワインセミナーにも大勢のお客様が来てくれました。少し曇りがちなお天気はワインにはうってつけです。でも今日のゲストが登場したとたんにこの会場は晴天の熱い空気に包まれること間違いなしです。

早速ゲストを紹介しましょう。
共栄堂ワインを造られている小林剛士氏です。以前は四恩醸造におられて、このセミナーに3回ご出演いただきました。今回で4回目です。


皆で一斉に「つよぽーん」と呼びかけると「ハーイ」と照れ臭そうに出て来てくれました。相変わらずノリの良いつよぽんです。
さあ!ここからはつよぽんにバトンタッチです。よろしくお願い致します。

皆さんきょうは有難うございます。小林です。四恩醸造で10年やって来まして、今は共栄堂ワイン事業部として牧丘にある三養醸造さんでワインを造らせてもらっています。
・私のワインについての考え方
私のワインはワイン名が記号になっているので、多分皆さんに解りにくいと思います。いろいろ先に語るよりも、まずとにかく飲んで感想を聞かせてください。

〜篠原テイスティング 1番目のワイン  共栄堂ワイン K16 FY_AK です。
 最初に赤ワインです。意図的にされていると思いますが、透明ではない。紫色の強いやや淡目の若々しい色合い。香りはサクランボやいちごキャンディーとか綿菓子の様な甘さを連想させる香り。味わいは、酸がしっかりしていて軽いタンニン。全体的に軽やかですっきりしている若々しいライトボディーの赤ワインです。〜

皆さんの方から「赤ワインなのにすっきりしている。」「飲みやすい。」などの声が上がる。

つよぽんです。
一般的なワインの場合は、ラベルを見ると大体そのワインの内容が理解できるようになっていますが、自分はそういうのが好きではない。先入観無しで飲んで貰いたいので、最初に説明しないで飲んでもらいました。テイスティングの順番ですが、このワインは非常に軽やかで酸が立っているので、ブラインドで飲むと赤ワインかどうかもわかりにくいという造りをしていますので、あえて白ワインの前に出させてもらいました。

今日は皆さんが今までイメージしてきたワインのカテゴリーを外していただいて、例えば赤だからお肉です、白だからお魚ですという固定観念を持たないでもらいたいと思いこういう提供の仕方をさせていただいています。
この赤ワインですが、一般的にベーリーAですとカシスのような強い香りがしますが、このワインはイチゴとかサクランボのような軽い香りがします。このワインには、自分だったら白身の脂の少ない肉を焼いて、その焼いた後のフライパンにイチゴジャムを入れてソースを作ったものと合わせるというような事をします。これを自分は「なんちゃってソース」と呼んでいますが、お肉に付け合わせるソースをいろいろ考えるとワインにとても合わせやすくなります。

・ワイン名について
ボトルにある名前です。K16 FY_AK いろいろ先入観を持たずに飲んで欲しいので、わざと解りにくくしてあります(笑)。Kは共栄堂のK,16は2016年産、FYは12月に出荷ですので冬の意味のFYで、AKは赤の意味です。赤はレッドとかルージュのRでも良いのですが、ロゼのRと間違えやすいのでAKと日本語の赤としました。その応用で2番目のワインのFY_DDは冬のダイダイです。3番目のHR_DDは春のダイダイとなります。ワインの名前については以上ですが、恐らく慣れてくると簡単になります。

では、2番目のワインK16 FY_DDを味わってください。
〜色がとてもきれいな橙色をしていますが、これは白ワインですか?〜
製法的にはロゼの造り方です。白ワインとは区別しています。しかし色的にはピンクのロゼ色ではないので、あえてダイダイと言っています。私は10年程前からこの造り方をしていますが、最近特にイタリアワインに同じような製法を見かけるようになりました。オレンジワインと呼んでいるようです。しかしこういう白ぶどうを漬け込む製法は昔からあったようです。このワインは1週間位果皮や種と一緒に漬け込んであります(マセラシオンと言います)。
品種は甲州で、みかんなどの柑橘系の香りが主体です。果実味を感じて頂けると思いますが果実味が出てくると楽しいです。それにプラスハッサクなどの渋みが出て来ています。1番目の赤より歯ぐきがシュと締まる収れん味がダイダイの方が強く感じるので、こちらを2番目にしました。
合わせるお料理は、豚のバラ肉など脂のある肉がこの収れん味を和らげるので良く合います。ここにはさっきのイチゴジャムソースよりもっとさっぱりした岩塩、コショウ、ハーブなどのほうが良いですね。またこの渋みや果実味があれば、豚の角着煮などの醤油味とも戦わないのでおすすめです。こういうイメージを持ちながらいつも飲んだり食べたりしていますが、これが私の一番の楽しみです。

〜つよぽんのお料理のお話は素晴らしいですね。実はつよぽんのパートナーは料理研究家で山梨のTVにもレギュラー出演されていたり、お料理の本も何冊も出版されています。また山梨市の駅前にマイアンという和食のお店も出されています。私達普段のお料理は時間が無かったりして手の混んだものは作りにくいですが、つよぽんの手作り料理は簡単なものが多いので、とても参考になり有難いです。ワインの造り手さんはこういうお料理との相性を考えているという事がわかると、私達ももっとワインに近づける感じがしますね。〜

つよぽんのお話です。
3番目のワインはスパークリングです。これも甲州のダイダイですが、味わいが少し違うと思います。ワインの味を強く出す為に浸漬時間(マセラシオン)など作り方を工夫していますので、それで渋みが強くなったり、最後にオイリーな香り(自分はフラワリーと言っています)が出てきたりします。

このスパークリングワインの造り方
スパークリングワインで最も有名なのは、ビン内二次発酵で造られるシャンパーニュですね。このスパークリングは瓶内二次発酵ではなく、アンセストラルとかリュラルという方法です。発酵はステンレスタンク(自分はホーロータンク)で行い、発酵がそろそろ終わる頃を見計らって瓶詰し王冠をします。そうするとビンの中でまだ発酵が続いているわけです。ですから時期を誤るとビン内の気圧が高まり王冠が飛んだりビンが破裂したりすることがあります。計算が合っていれば、ビン内で発酵が終わり炭酸ガスが封印されます。でもまだ酵母がオリとして残っているので、ピュピュトルというオリ下げ台で口元にオリを集めた後もう一回開栓してオリを外に出して、また王冠をしています。

〜ここで試しにまだ開栓していないボトルで、オリ抜きの方法を実演してもらいました。一度ボトルを逆さにしてオリを口元に集めて、さあ抜栓です。ポーンという音がして、アワが勢いよく吹き出しました。凄い迫力です。この位の圧力があると口元にあったオリも大分外に飛び出すと思います。でもこのやり方ではどうしてもまだオリが少し残るそうですので、このスパークリングもいくらか濁りがあります。



つよぽんの実演で皆さん「キャーすごい!」と大喜び。このワインの圧力の強さが良くわかったと思います。ご家庭で抜栓する時は良く冷やして静かに開けてもらいたいと思います。
興奮さめやらずですが、今開けたスパークリングを味わいながら引き続きつよぽんのお話です。〜

このワインに合わせるお料理はオーブン焼きがいいですね。カブ、人参、ジャガイモなどにオリーブオイルをかけてオーブンで焼くと野菜の凝縮した味とオリーブのオイルがこの渋みを和らげてくれる。これに鶏肉などを入れると更に良くなります。魚なら、タラなどの西京漬け、粕漬け、味噌漬けなど一般的な塩焼きより少し味の濃い魚が良いです。

・ワインラベルについて
テイスティングした3本のボトルを並べると大体イメージがつかめると思いますが、このラベルは陶芸作品になっています。最初の2本は抹茶茶碗で、3番目は花器の一輪差しです。私には美術家、陶芸家、芸術家などのアーティストの友人が大勢いますが、彼らの作品の発表の場を提供しようと思いついたのです。毎年違う作品にする積りですが、ラベルが変わると去年と同じワインを飲みたいと思った時に、どのワインなのかが解らなくなってしまいます。そこでワイン名を記号にすれば解りやすいということでこの形にしました。

では4番目のワインに移ります。 
ブーケ 2015 Revigneron (レヴィニョロン ぶどうを栽培してワインを造る人の意)このワインは2015年に四恩醸造で造ったワインです。マスカット・ベーリーA100%です。同じマスカット・ベーリーA主体の1番目のK16FY_AK(マスカット・ベーリーA95%、巨峰5%)と比較しながら味わってみましょう。

〜篠原テイスティング
K16FY_AK・・・紫の強い若々しい色合い。イチゴやサクランボなどの若々しい香り。酸がしっかりした軽やかなワイン。
ブーケ 2015・・・オレンジよりも茶になり始めたガーネット色。落ち着いた香り。2年前のヴィンテージなので、通常ならばもう少し若い香りがすると思うが、これは熟成が始まったような香りで、イチゴやサクランボのリキュールからジャムに近い香りになっている。味わいは、熟した果実の風味、しっかりとした酸、穏やかなきれいなタンニン。全体的にジャムの様な味わいですが、バランスがとれていて、味わい深い珍しいワインだと思います。
ワインは造り手を良く現していると思っていますが、このワインはアート好きなつよぽん自身の表現の様な気がします。単体で飲んでも、一日の終わりに「お疲れ様」と言ってくれるような、とても癒される味わいです。〜

つよぽんのお話が続きます。
・ワインを単体で飲むという事
ヨーロッパではパンを主食としてお料理と共に食中酒のワインを飲むのに対して、日本ではアテ(つまみ)文化だと思っています。酒を飲んでちょこっとつまみを食べ最後に炭水化物で〆る。酒を引き立てるつまみは食事ではないと思っています。
しかし今4番目に飲んだワインは、日本酒と同じように単体で、アンチョビとかキッシュとかをつまみにしながら飲むというやり方も有りかなというイメージを持っています。

ブーケ 2015の造り方
先程篠原さんが若いヴィンテージなのに熟成した味わいで珍しいワインと言われましたが、それは作り方に秘密があります。非常に遅摘みのマスカット・ベーリーA(12月23日収穫だったのでレーズン状のぶどう)をMC法で仕込みました。
MCで有名なのはボジョレー・ヌーヴォーですが、同じようなやり方でレーズン状のぶどうを果皮に付いている天然の酵母でじっくり発酵させ、そのままずーと3か月間春先まで寝かせておきました。こうするとタンニンはあまり強く出なくて、優しい細やかな味わいになっていると思います。色は明らかに紫よりもレンガ色に近くなっていますが、これは熟成に時間をかけたり空気に触れさせたりしていたので、通常よりも熟成感がでています。1年でここまでの熟成感を出すのは特殊なやり方をしているからで、通常のビンで熟成させる場合は10年以上かかります。自分は熟成したワインが好きなのでこういうのも造ってみました。


〜「不思議なワイン」「優しくて飲みやすい」「おいしい!」などなど皆さんそれぞれに感想をつぶやいています。最後につよぽんが皆さんにプレゼントのワインを持って来てくださいました。〜

最後に私からのプレゼントです。
2016年に四恩醸造でビン詰した「仄仄 ほのぼの」というワインです。デラウエアのワインの発酵途中でブランデーを添加して発酵を止め、糖分を残し甘口にした酒精強化ワインです。さらにシェリーのソレラシステムの様に、2009年と2011年のワインも加えて複雑な味わいにしたノンヴィンテージのワインで、アルコール度数が18%あります。胃を活性化させる食前酒でも良し、〆の食後酒としても良し、フレッシュな味わいと熟成している味わいが混合していて面いと思います。

〜魅惑的な甘美な味わいに皆さんもう大興奮です。「うまーい」「ドカーンとくるね」と言いながらグイっと飲み干して、「あーっ、グイっといかないでください。アルコールが高いので、チビチビいってください。」とつよぽん大慌ての一幕もありました。〜

最後につよぽんからワインの造り手としてのまとめのお話です。

・まとめ
私は自分が造るワインは亜流だと自覚しています。何でもそうですが、突き詰めれば三角形で言えば頂点を目指すほど繊細になっていきます。しかし私は自分の造るワインは裾野で良いと思っています。自分のワインは味わう要素が多いので色々な食べ物と合わせやすいし又、色々な要素を持っている人達とも喧嘩しないでやっていけます。そのイメージはレストランでなくご家庭です。今日テイスティングして頂いたワインは、あまり個々のお料理にこだわらなくても、色々なお料理に合わせることが出来ると思っています。
ワインのジャンルは広くて醸造方法やシチュエーションも様々なので、色々試してもらって「自分はこれが好き」ではなくて、「今日はこれを飲んでみようか」の様にチョイスしてもらうきっかけになってくれれば良いと思います。
きょうは有難うございました。

〜「えーっ!もう時間なの?」「もっと話を聞きたい!」と皆さんおなごり惜しそうです。残念ですがタイムリミットです。てんこ盛りのおいしいワインとてんこ盛りの楽しいお話でした。朝市のざわめきの中でここだけが時間が止まった感じがしました。

つよぽん今日はお忙しい中を本当に有難うございました。これからもずーとつよぽんの造るワインを追いかけていきます。お体に気を付けてご活躍ください。

さてさて、今回はゲストと同じくワインに熱い方が多く来てくださって、セミナーが終わっても何人もの方が興奮さめやらぬ様子で「楽しかった!!」とわざわざ私の所に言いに来てくださいました。私もワインセミナーをやっていて本当に良かったと思えた瞬間でした。
次回も楽しいですよ。このテントの下でお会いしましょう!   篠原

お待ちかねワイン俳句です
こぼれたよ ワインすすって 朝市よ 山の地蔵さんさん
五月雲 勝沼朝市 ワイン楽しむ 由ちゃんさん
先生と つよポンの話も おもしろい ヴィーニョヴェルデ さん
つよぽんの こだわりワイン いやし系 あんずさん
こよみの上では 夏だけど ワインセミナーは春 高さん
きのう飲み 今日も飲んで あすも飲む 残念お名前なしさん
勝沼の 風に吹かれて ほろ酔いに すみちゃんさん
つよぽんも ワインも 自由で いい感じ なおさん
これだけで すっかり よっぱらいました りさん
はじめての つよぽんワイン 最高だ!! ウランちゃんさん
鉢植えの 剪定枝から 芽が息吹き Kさん
連休の 掉尾を飾る 良いワイン Doraさん

*掉尾を飾る・・・ちょうびをかざるとは、物事の最後を立派にしめくくることの意味。



以上です。