かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第91回 2017.10.1
参加者 県外8名 県内14名 計22名



講師 篠原シニアワインエキスパート
ゲスト(株)Kisvin(キスヴィン) 醸造家 斎藤まゆ様



アシスタント 深澤さん、尚枝さん

ワインリスト
1 Kisvin 甲州 2013(株)Kisvin
2 Kisvin 甲州 2015  〃
3 Kisvin 甲州 レゼルヴ2015  〃
4 Kisvin シャルドネ 2016  〃

セミナーの内容
1 本日のテーマ「Kisvinワインのヴィンテージ、製法、品種の違いを楽しむ」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について
4 ゲストの斎藤まゆ様のお話 
 


レポート
実りの秋、ワインの仕込みでワイナリーさんは大忙しの季節です。いつもなら朝市の前日が勝沼の「ぶどうまつり」ですが、今年は珍しく1週間後のお祭りになりました。でもいつもにも増して大勢のお客様で朝市会場はごったがえしています。イワシ雲が浮かぶ気持の良い秋空の下で、さあ今日も楽しいワインセミナーの始まりです。


本日のゲストは、なんとなんと待望の斎藤まゆさんです。1年程前に、あるレストランでKisvinさんのメーカーズディナーがあり、ワインのお話で来られていたまゆさんに篠原が猛アタック。「是非かつぬま朝市のワインセミナーに来て頂けませんか?」とお願いしたところ、即座に「いいですよ。」のお返事。なんていい方なんでしょうと感激しました。

Kisvinさんのオーナーの荻原康弘さんをはじめ醸造家の斎藤まゆさんは、ワイナリーの設立当初からテレビ、新聞、雑誌、講演会などに登場され、ちょっと敷居が高い思いがありましたが、気さくなまゆさんに、一目ですっかりファンになってしまいました。
 
セミナーの開始時間になりましたがなかなか始めることが出来ません。と言うのもワインセミナーの様子を見にきていた方々が、今日のゲストの名前を見てビックリ、次々に参加してくださっているからです。とうとう「満員御礼」の札が出てようやくセミナーのスタートです。さあこの人気の秘密は一体何でしょうか?まゆさんのお話の中から見つけ出したいと思います。

ゲストの斎藤まゆさんのお話です。

皆さんこんにちは!今日はかつぬま朝市ワインセミナーに来ることが出来て、本当にうれしいです。
今ワイナリーは大変忙しい時期です。畑からぶどうを収穫してきては機械に掛けて搾り、収穫しては搾りを繰り返して、それが発酵し熟成にかかっていくそんな時期です。短い時間ですが今日はワイナリーの忙しさを忘れて、皆さんと一緒にワインを楽しみたいと思います。

ワイナリーのこと
 Kisvinワイナリーは、ぶどうの専業農家であるオーナーの荻原康弘が、2013年に甲州市塩山の自宅の敷地内に設立したワイナリーです。ワイナリーが出来てから今5回目の仕込みをしているところです。古くからワインを造り続けている勝沼地区のワイナリーから比べると、新しいワイナリーですが働いているスタッフも若いので、皆で知恵を出し合いながら手作りでワイナリーを作っています。

今日は当ワイナリーのファーストヴィンテージになります2013年の甲州をはじめとして、4種類の白ワインを味わっていただきます。

甲州のヴィンテージ違いについて
皆さんに味わっていただく前に、まだあまりワインに慣れていない方の為に、私達が行うテイスティングの方法をお教えしましょう。

私達が行うテイスティングの方法
ワインはグラスの一番膨らんだところまで注ぎます。グラスを手に持ってまず色を見ます。少し黄色みをおびた透明ですね。輝きはどうか、色味はどうかをつかみます。そしてそのまま1回香りを嗅ぎます。ハーブの香り、柑橘の香り、お花の香りなど今までの自分の記憶の中にある香りと結びつけます。

次にグラスを回します。グラスを回すことによって中のワインの温度が少し上がります。また空気と触れ合うことにより、このワインがどの様に熟成していくかという事を感じていきます。グラスを回すときは誤って他の人にかからないように内側に回しましょう。いかがでしょうか。グラスを回す前と回した後の香りの違いはどうでしょうか?香りが立ち上がって来たことがわかると思います。次に口に含んで、舌の上でころがします。口の中全体で、香り、味わい、舌ざわり、の特徴をとらえます。何が良いとかの正解はありません。自分はどういうワインが好きなのか、そのワインが自分に対して何を訴えてくるのかをみて楽しみましょう。私達はテイスティングする時はいつも吐き出しますが、ここではどうぞ飲んで楽しんでください。

最初のワインは、Kisvin甲州2013です。



2番目のワインは Kisvin 甲州2015です。


1番目のワインと同じ銘柄の同じ甲州でヴィンテージ違いですが、2つを比べてみると違いがはっきりしていると思いますが、わかりますか?


〜「1番の方が色が濃いです」、「香りが違います」などの声あり。〜そうですね。1番目のワインは瓶詰めしてから時間が経ったことにより、ワインがこなれて来て色も濃くなり、少し熟成香が出て来ています。新しいワインよりもすこし 熟成したものがお好きな方はこちらをどうぞ。
 2番目のワインはフレッシュで、少し口の中でシュワとするような爽やかさを楽しんでいただけるワインかと思います。

甲州ぶどうについて
 Kisvinでは皆さん聞き慣れないと思いますが、「エメラルド甲州(緑の甲州)」というのを作っています。
甲州ぶどうは熟してくると果皮が紫色に変わってきますが、同時に甲州の特徴である苦味が付いてきます。苦味の部分を極力抑え、また酸をきれいに保持してぶどうを作りたいという思いで、Kisvinでは甲州ぶどうを色を付けずに熟させるという事を2008年から始めました。そのやり方を段々と確立して、今Kisvinの「エメラルド甲州(緑の甲州)」が皆さんに知れ渡って来たところです。

「エメラルド甲州(緑の甲州)」の作り方ですが、ぶどうの色が付き始める頃、クラフト紙で出来た傘紙をぶどう1房1房に掛けます。この傘紙により日光が遮断され、直接葡萄の房に日光が当たらないので、果皮に色が付いてこないまま糖度が段々上がってくるというやり方です。この傘を掛けるタイミングが難しいですが、酸がきれいに残ったまま熟していく事が出来ます。このやり方ですと糖分が乗ってくるのがゆっくりですから、収穫時期は遅くて、例年10月半ばから11月の初め頃まで収穫を続けています。先程1番と2番のワインのどちらがお好きですかと聞きましたが、醸造する上で、飲み手に今何が求められているかという事を考えながらワイン造りをする事も大切だと思っています。




3番目のワインはKisvin甲州レゼルヴ2015です。今度は造り方の違いです。


2番目の甲州2015と3番目の甲州レゼルヴ2015を比べてみましょう。
2番目はステンレスタンクで発酵〜熟成しています。
3番目はステンレスタンクで発酵し樽熟成しています。

〜「樽の香りがする」の声あり〜
はっきりとした香りの違いがわかってもらえると思います。甲州をはじめとする白ワインは、フレッシュ、フルーティー、飲みやすいというのももちろん大切ですが、長期熟成させて面白いというワインも造っていきたいと思っています。この甲州レゼルヴは、果汁の段階で長期熟成に向いているという事を感じとって、味わいがふくよかで酸がしっかりしているものを分析値と合わせて判断して決定しています。
熟成期間が長いということは、ワイナリーにとっては結構大変なことですが、あえてそれを行いたいと思う程の良い果汁から出来たワインをしっかりと寝かせています。3番目の甲州レゼルヴはマロラクティック発酵をしています。

マロラクティック発酵とは
ワインには一次発酵と二次発酵があって、一次発酵はアルコールを造る発酵で、二次発酵は乳酸菌の働きでワインがまろやかでふくよかになって、更に安定することが出来ます。そういった二次発酵を3番目のワインは行っています。

ワインの醸造方法の違いによって、甲州2015からはフレッシュで爽やかな酸味を感じ、甲州レゼルヴ2015からはまろやかさを感じながら、それぞれの味わいの違いを楽しんでいただけたらと思います。

酒石について
 3番目のワインは開けるとボトルに酒石がついていることがあります。それは、ワインを安定させる為にわざと酒石を落とすような事はしていないからです。以前は酒石は見た目がガラスの破片に似ているので嫌がられましたが、今はもう皆さんワインの事を良く理解してくださっているので、抵抗も無くなってきているようですね。もともとぶどうに含まれている酒石酸が結晶したものですので、体に害はありません。

〜ここでボトルの底に少し見える酒石を皆さんで見ました。「初めて見ました。」の声あり〜 〜「酒石と澱とは違うのですか?」の質問です。〜
 澱(おり)は主に役目を終えた酵母やタンパク質などが多く、ワインの中に濁って浮いているものが下に沈んで底に溜まったものですので、酒石とは別のものです。ただ両方ともボトルの底にありますので、澱の中に酒石が混ざっている場合もあります。


〜「最近は無濾過の濁ったワインもありますが?」〜
 Kisvinワインではあまり濁ったワインは造りません。私はワインには輝きがなければいけないと思っています。ワインのある色々なシーンを思い浮かべますが、例えば人間の営みのドラマチックな場面とか、またレストランで向かい合っている男女のカップルのテーブルの上にKisvinのワインがあったらなとか、そういう事を考えながらワインを造ることもあります。色気ということを自分なりに考えると、やはり輝いている物の方が皆さんに訴えかける力があるのかなと思います。宝石の様な感覚でしょうか。美しい物は輝いているものだと自分では考えているので、そういう理由で濁ったワインは造りません。

〜お話の途中で会場からどっとどよめきの様な声が聞こえました。「エー!そういう事を考えながらワインを造っているんだ。」「かっこいい。」などの声がきこえます。(笑)〜
〜まゆさんのお話は続きます。〜
 
輝きのあるワインにするには出来立てのワインは濁っています。例えば水の中に牛乳を入れたような感じですね。それが段々と下に沈んで行って清澄されて、輝きを増してきます。でもそれだけではここまでクリアな輝きにはなれません。Kisvinワイナリーではほとんどのワインに荒い濾過をかけてあります。ワイン好きの方の中には無濾過でないと嫌だと言う方もいらっしゃいますが、私の経験ではワインを濾過して磨きをかけた方が美味しくなります。それは、ぶどうがもともと持っている成分が多ければ多い程、雑味も多くあります。それを薄っすらと取り除くことにより、雑味がとれ口当たりが良くなり、ザラザラという舌触りが無くなります。滑らかで輝きがあり口の中にそっと入ってくる、そんなワインを造ろうと思っています。

皆さんのところに4番目のワインが出て来ましたね。
Kisvinシャルドネ2016です。


シャルドネという品種のワインで、これも樽熟成してあります。3番目と4番目の品種の違いを楽しんでください。基本的には、甲州とシャルドネの味わいの違いがわかって頂けたら幸いです。

〜「甲州の方が樽がしっかりしているのでは?」〜
そうですね。私は甲州の方が樽のインパクトを受けやすいのかなと造っていて感じます。甲州は3か月間、シャルドネは7か月間樽に入れてありますが、それだけ甲州は繊細なぶどうということが言えると思います。樽に入れる期間は特別なレシピがあるわけでは無く、ワインの味をみながらその時のワインにとって一番良いと思う時期に樽から出す作業を行います。

〜「それは勘でやるのですか?」〜
私は理科の実験のような化学的な分析をしますので、数値的にはとても細かくとります。勝沼には県立のワインセンターという研究所がありますので、そこで分析しながらぶどうを収穫する時期であったり、発酵や熟成の進み具合であったり、ワインになってからの理化学的な数値をとるようにしています。世界中のワインのデータを参考にしながら、あとは自分の感性を研ぎ澄ませてワインの声に耳を傾けます。その為に自分の体調管理をしっかり行って身体を作ります。この世界は経験がものをいう世界ですから、どういう所でワインを造って来たか、私の場合では、アメリカのカリフォルニアだったり、フランスのブルゴーニュ地方で修業をしてきました。それぞれのワイナリーが、いつどういうところで、どういう決断をしているのかというのを見てきましたので、それらの経験を生かして自分で判断を下しています。

今日は白ワインが4種類でしたが、Kisvinには赤ワインはシラーとピノ・ノワールと黒ぶどうのブレンドのルビーがあります。

〜「ピノ・ノワールは日本では栽培しにくい品種と聞いていますが?」〜
確かに栽培しにくい品種ではありますが、でもどの品種でも苦労しないで出来るものはありません。どのぶどうもみんな難しいのです。特にピノ・ノワールは育っていく中で果皮が柔らかくて、粒がぎゅっと詰まって付くので熟すと潰れやすく、それを潰さないようにするにはどうしたら良いかを考えながら栽培しています。当ワイナリーには、生食用、ワイン用合わせて60種類以上のぶどうが植えてあります。毎年トライアンドエラーでやっています。実はピノ・ノワールよりもっと難しい品種があるのですが、どなたかわかりますか?
〜「ジンファンデルですか?」の声あり。〜
大当たりです!ジンファンデルはカリフォルニアで多く栽培されている品種ですが、ピノ・ノワールよりもっと果皮が薄くて、熟し始めると粒が割れてくるという非常に難しい品種です。不思議なことにKisvinのスタッフは難しい事には益々意欲を燃やしてチャレンジするのです。ジンファンデルからはロゼワインのホワイトジンファンデルというワインを造っています。これも日本では珍しいワインですね。酒屋さんで見かけたらぜひ手に入れてください。勝沼の「新田商店(にったしょうてん)」さんは日本ワインの品揃えがものすごいですから、置いてあるかもしれませんね。お薦めの酒屋さんですから、お買いものに行ってくださいね。

以上で本日のワインについての説明は終わりました。何かご質問がありましたらどうぞ。
〜「今年のぶどうの出来は?」〜
 7月までの気候は素晴らしかったのですが、8月の長雨で傷んだぶどうが出てしまいました。雨の中で連日その傷んだところを切り落とす作業を行いました。それで何とか長雨を乗り越えて、きれいなぶどうは順調に熟しています。自然条件との戦いは毎年のことです。早く収穫したぶどうは、酸がきれいにのっていますので、酸を生かした造りをします。又、シャルドネについては、今日もスタッフが収穫をしてくれていますが、何回かに分けて収穫します。甘さが強く、よく熟してきているので、2017年のシャルドネはトロピカルな味わいが出て来そうだと思っています。甲州は、近所の畑ではもう収穫が終わったところもありますが、当ワイナリーでは、「エメラルド甲州(緑の甲州)」の酸がしっかりしているので、まだ収穫せずにもっと熟させてから収穫します。初めにも言いましたが今は収穫しては搾り収穫しては搾りの時期で、これが10月下旬まで続きます。

〜2013年も同じ造り方ですか?〜
やはり「緑の甲州」です。「緑の甲州は」2008年からやっていて良い結果が得られているので今はこの方法をとっています。しかしずっとこのやり方で良いかというとそれはわかりません。おいしいものを造るには手段を選びません。例えばもし傘を掛けない方が良いとなれば、柔軟にやり方を変える事もあります。毎回毎回ワインを出すごとに本当にこれで良いのかと考えるようにしています。細かい事でも自分達の行ってきた過去を、常に見直して変えていければ、進化していけるのかなと考えています。皆さんがKisvinのワインを飲んで感じた事を、ワイナリーに来て伝えてください。皆さんの意見を参考にして、私達は変えることができます。ワインにとって良いと思う事はどんどん変えていきます。それがKisvinのやり方です。

本日は皆さんとお会いできて本当に楽しかったです。ありがとうございました。

まゆさんのお話が終わりました。もっともっとお聞きしていたいのですが、残念ながら時間になってしまいました。まゆさん。ワイナリーの一番忙しい時にご出演くださいまして本当に有難うございました。まゆさんがカリフォルニアの大学でワインの勉強中に荻原社長と出会われ、お互いにこの人とならば一緒に美味しいワインを造る事が出来ると意気投合されたそうですが、まさにお二人の天才的なひらめきが一致された瞬間だったのですね。おかげ様で私達が美味しいKisvinワインを飲むことが出来て本当に幸せです。まゆさん、これからもKisvinワインのように益々輝いて美味しいワインを造り続けて頂きたいと思います。



さて11月のかつぬま朝市ワインセミナーは、「勝沼ワイン140年記念 スペシャルワインセミナー」で、勝沼ワイン協会とのコラボです。どうぞお楽しみに。   篠原

たくさんのワイン俳句ありがとうございました。

荻原さん まゆさんバンザイ カンパーイ! ヤジサンキタサンさん
透き通る 秋風ただよう ワインかな 花より団子さん
酒石って 昔軍用 今娯楽 まさきちさん
勝沼で おいしいワインを 知る幸せ 長ちゃんさん
赤トンボ キスヴィンワインに 頬も赤 サトシさん
造り手の 哲学光る ワインかな よっぴーさん
キスヴィンの 恵みをいただく 秋日和 kazuyanさん
甲州の 香りにひかれ 勝沼に AOPさん
秋半ば ワインイベント 目白押し Kさん
まゆちゃんの 赤ちゃんすくすく イケメンに オジイさん
青空を クリアに透かす 君のワイン AZさん
秋空に キスヴィン香る 市の朝 呑舟さん