かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第92回 2017.11.5


「勝沼ワイン140年記念スペシャルワインセミナー」
参加者 県外26名 県内7名 計33名
講師 シニアワインエキスパート 篠原雪江

ゲスト
勝沼ワイン協会  錦城葡萄酒(株) 高埜よしみ様
中央葡萄酒(株) 金子克憲様
(株)シャトー勝沼 佐藤真由美様
アシスタント 深澤さん、尚枝さん

ワインリスト
1 新酒 錦-Nishiki 白         錦城葡萄酒(株)
2 2016 グレイス 甲州        中央葡萄酒(株)
3 2012 GI山梨・甲州樽熟     (株)シャトー勝沼



勝沼ワイン協会提供
振舞ワイン
・2016 アルガブランカ クラレーザ ディスティンタメンテ 勝沼醸造(株)
・2016 セレクト(赤)    イケダワイナリー(株)
・2015 リュナリス 甲州バレル・ファーメンテーション マンズワイン(株)
・2016 グレイス茅ヶ岳(赤) 中央葡萄酒(株)
・錦城ワイン(赤)一升瓶   錦城葡萄酒(株)
・NV.勝沼ワイン 一升瓶  (株)シャトー勝沼

セミナーの内容
1 本日のテーマ「勝沼ワイン140年を学び味わう」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について
4 ゲストの紹介

レポート
11月は新酒の季節。一昨日の11月3日には各ワイナリーから一斉に山梨ヌーボーがリリースされました。ワイン好きにとってはワクワクする季節です。今回のかつぬま朝市ワインセミナーは、勝沼ワイン協会と甲州市と我がワインセミナーとのコラボレーションで、「勝沼ワイン140年記念スペシャルワインセミナー」となりました。いつもより参加者の定員も増やして予約を受け付けましたが、早い内に満席になり、ご参加頂けなかった何組もの方々本当に申し訳ありませんでした。


清々しい青空の下、早速スペシャルワインセミナーの開始です。
はじめに勝沼ワイン協会の今村英香副会長より、記念セミナーの主旨のご挨拶がありました。
ワイン協会からは、ワインやクラッカーなどを提供して頂いております。


引き続きゲスト講師の紹介です。本日は勝沼ワイン協会のメンバーであります錦城葡萄酒の高埜(たかの)よしみさん、中央葡萄酒の金子克憲さん、シャトー勝沼の佐藤真由美さんの3名の方がそれぞれ自社のワインを解説してくださいます。とても楽しみです。ゲストの紹介が終わりました。

さあここからはいつものワインセミナーとなります。本日のテーマは「勝沼ワイン140年を学び味わう」ですので、このお話をしていきたいと思います。

篠原です。勝沼でワインが造られ始めたのは明治に入ってからと言われています。明治10年8月に祝村(現在の甲州市勝沼町下岩崎)に、日本で初めての民間のワイン会社である「大日本山梨葡萄酒会社」が設立されました。その2か月後の10月10日に社命を受け2人の青年がぶどうの栽培とワインの醸造を学ぶ為にフランスへ旅立って行ったのです。この明治10年(1877年)から数えて今年(2017年)がちょうど140年目に当たります。2人の名前は土屋助次郎(後の竜憲、当時19才)と高野正誠(当時25才)さんです。篠原は親しみを込めてお2人をツッチーとタッチーと呼んでいますが、会場からもツッチーとタッチーと声が掛かりました。


苦難を乗り越え見知らぬ国で勉強を終えて1年半後に帰国した2人は、すぐにぶどうの栽培とワイン醸造の準備に取り掛かりました。と同時に地域の人々や全国からやって来た研修生にその知識を惜しげもなく伝えました。そのおかげで勝沼をはじめ日本各地で本格的なワインが造られるようになったのです。


ちょうどこの頃、2人の教えを受けてワイン造りを始めたと言われるワイナリーがあります。本日ゲストで来られているシャトー勝沼さんです。
シャトー勝沼の佐藤真由美さんです。


シャトーの佐藤です。(笑) 創業は明治10年と伝えられておりまして、勝沼のワインの歴史と同じ位ワインを造り続けております。初代から数えて現在は4代目です。ワイナリーの場所は、勝沼ぶどう郷駅から徒歩10分位の所にありまして、ワイナリー、ショップ、レストランがあり、私はそのレストランにおります。本格的なフレンチで多くのお客様に当社のワインとフランス料理のマリアージュを楽しんでいただいております。皆様のお越しをお待ちしております。


シャトーの佐藤さん有難うございました。
本日のゲストのワイナリーさんはその設立の時期と形態に、勝沼のワイナリーの特徴を良く現していると思いますので、ここからは勝沼のワイナリーの移り変わりをみながらゲストさんのお話を聞いていきます。

勝沼には1300年あるいは830年も前から甲州葡萄をつくっているという伝説がある位昔からぶどう栽培が行われ現在まで続いています。ワインの原料となるぶどうが身近にあることから、土屋、高野両氏から栽培や醸造を教わった農家の人々が、自分たちが飲むためのワインを造りはじめました。そして勝沼の地区ごとに醸造所を設け、共同でワイン醸造を始めるようになりました。行政指導により個人〜組合〜株式会社へと形態は変わって行きますが、現在でもぶどうを持ち寄っている農家が株主になって共同経営の形を残しているワイナリーがあります。錦城葡萄酒さんです。

錦城葡萄酒(株)社長の高埜さんどうぞ!


錦城葡萄酒の高埜でございます。ワイナリーの場所は、ぶどうの丘の西側のふもとにあります。もともとは東雲(しののめ)地区の160軒の農家がぶどうを持ち寄り、農家の方が自家用で飲むためのワインを造っていました。昭和60年に醸造所を立て直したのをきっかけに、販売もするようになりました。それまでは一升瓶ワインのみでしたが、この時から720mlも導入して、白は甲州、赤はマスカット・ベーリーAを造り、これは今も変わっておりません。現在は6割が市販で4割が農家さん向けとなっています。よく他のワイナリーさんから原料ぶどうが足りないと言う話を聞きますが、錦城葡萄酒では昔からの農家さんのほとんどが契約農家としてぶどうを提供してくださいますので、原料の心配が無くて本当に有難いと思っています。

高埜さん有難うございました。
錦城葡萄酒さんの様に、ぶどう農家が株主となって共同経営でワイナリーを運営してきたのが勝沼のワイナリーの特徴であると言えると思います。昭和初期には各地区ごとにこの様なワイナリーが数多くありましたが、現在では3〜4か所位しか残っていません。次代の流れと共に、醸造をやめてしまったり、また株を多く持っていた株主が他の農家の株を譲り受けたりして、段々と醸造権が1軒の株主に集約するようになっていきました。現在の勝沼のワイナリーの多くが、この様な1軒で株式会社として醸造を行っている形です。勝沼の代表的なワイナリーの中央葡萄酒さんもその1つです。
中央葡萄酒の営業担当の金子さんです。お願いします。

中央葡萄酒の金子です。

中央葡萄酒のオーナーは三澤と言います。今日は写真を持ってきましたが、現社長で4代目の三澤茂計(しげかず)と今日2番目に飲んでいただくワインを造った長女の三澤彩奈です。この2人の真中に写っているワインは、三代目の三澤一雄が1957年に造った甲州ですが、中央葡萄酒が保存しているものの中で最も古い甲州ワインです。初代、二代目の頃は中央葡萄酒のブランド名はセントラルワインと言っていましたが、三代目がギリシャ神話の3美神からとってグレイスと名付けました。よくグレースと間違えられますが、昭和初期に株式会社を設立した時の名残がこのブランド名にも残っているワイナリーです。よろしくお願いします。

ありがとうございました。以上、ゲストのワイナリーさんを紹介しながら、勝沼のワイナリーの形態について考えてみました。ここからは勝沼のワインのスタイルの変化について考えていきます。

篠原です。

明治12年にフランス留学から帰国した2人が造ったワインは、本格的な酸味や渋みのあるワインだったため日本人の嗜好に合わず普及しませんでしたが、明治の中頃から甘口ワイン(甘味果実酒)が登場し、日本人の好みに合う飲みやすい味で販売された為、長い間甘口ワインが主流となっていました。勝沼でも宮崎光太郎が「エビ葡萄酒」という甘口ワインを売り出したところ良く売れたそうです。このような甘口ワインが主流の時代が長く続きましたが、昭和39年(1964年)の東京オリンピックの頃から食生活の洋風化と共に外国の辛口ワインが輸入され、日本のワインも辛口で複雑な味わいが求められるようになりました。昭和45年(1970年)に開催された大阪万博の頃は、高度経済成長期に当たり、第1回目のワインブームとなりました。日本人の生活にもゆとりが出て来て、食事にワインを取り入れるようになってきました。昭和50年(1975年)には一般的なワインの消費量が甘口ワイン(甘味果実酒)を上回りました。

甲州で辛口ワインが造られる大きな転機が、昭和59年(1984年)にメルシャン(株)が売り出した「メルシャン甲州東雲シュール・リー」です。メルシャンはこのシュール・リー製法を地域のワイナリーに公開した為ここから「辛口の甲州」が始まりました。その後辛口の甲州にもう少し複雑味をつけたいということで樽熟成が始まりました。

更に甲州の魅力を一段と引き出したワインが現れました。平成15年(2003年)にメルシャン(株)が売り出した「甲州グリ・ド・グリ」です。甲州を皮ごと漬け込むという赤ワインの製法を取り入れて、なおいくつかの原酒をブレンドして造られたワインです。グリ色(灰色がかった紫色)の甲州の皮から出て来る色や味わいにより、色の濃いさらに厚みのあるワインが造られるようになりました。このワインにより、甲州でも肉料理など合わせるお料理の幅が広がりました。

同じ頃偶然に見つかった事ですが、甲州に驚くべき発見がありました。平成17年(2005年)に発売されたメルシャン(株)の「甲州きいろ香」です。メルシャンとフランスのボルドー大学の富永教授との共同研究により、今まで香りの少ないぶどうと思われていた甲州から、素晴らしい柑橘の香りを引き出す事に成功したのです。メルシャン(株)では、シュール・リーの時と同じようにやはりこのデータを公開した為、勝沼地区のいくつものワイナリーが、クリーンで繊細で香り高い甲州ワインを造るようになりました。

このように勝沼でワインが造られてから140年経った現在、私達は日本固有の品種である甲州から、バラエティーに富んだ素晴らしい味わいのワインを飲むことが出来る本当に良い時代に巡り合っているのです。今、世界で日本のワインが注目されています。平成22年(2010年)に甲州が又、平成25年(2013年)にマスカット・ベーリーAがOIV「国際ブドウ・ワイン機構」に登録され国際的な関心を集めています。国内においては、国税庁が初めてのワインの地理的表示として「山梨」を指定しました。

これから私達は視野をグローバルに広げて世界の中の甲州ワインという視点でワインを味わって行きたいですね。以上ここまで勝沼のワインのスタイルがどのように変わって来たかをみてきました。これから甲州ワインは更にどのように進化していくのか興味のあるところですが、ワイナリーさんに伺ってみましょう。金子さんいかがでしょうか?

金子さんのお話です。


先程の篠原さんのお話で甲州のスタイルの変化がお分かりいただけたと思いますが、私が1999年に入社した頃は、一升瓶ワインが多く出回っていました。中央葡萄酒では、辛口ワインで世界を目指すというのが会社の方針でした。しかし、酒販店さんに営業に行くと「これは葡萄酒だろ?」と言われ、外国ワインとは別のお土産ワインの中に置かれて悔しい思いをしました。これから日本のワインがどのように進化していくかを考える時に、私はクオリティーの良さをしっかりと認知してもらえるようにする事だと思います。それには2020年の東京オリンピックが1つのポイントになると思いますが、海外の方に日本にも高品質なワインがあることを知ってもらう良い機会だと思います。現在全国でワイナリーが約300位ありますが、この日本のワインが、特に甲州が世界のワインリストの中に当たり前のように入ってくる時代を目指して行きたいと思います。

また、これからはワインもローカルに注目が当たると思われますので、山梨のぶどうと言えば「甲州」と言えるように(シャインマスカットではなく(笑))、消費者である応援団が甲州ワインを自信を持って伝えられるようになると、もっともっと甲州が広まって行くと思います。皆さんよろしくお願いします。金子さん有難うございました。

本日は特別なワインセミナーでしたので、皆様と共に勝沼のワイン140年を振り返っていただきましたが、お待たせいたしましたここからはテイスティングに移ります。
各ゲスト講師に解説していただきますので、お話を聞きながら味わってください。

最初のワインは
新酒 錦-Nishiki-白 錦城葡萄酒(株) です。

高埜さんお願いします。このワインは今年の新酒です。社名の錦をとってNishikiと名付けました。ラベルも可愛らしく錦織の雰囲気を出してみました。
ぶどうの収穫は9月12日と13日に通常より少し早めに行いましたので、フレッシュな香りと爽やかな酸を感じていただけると思います。今年最初のワインですので甘口の造りとなっています。
〜「甘酸っぱくておいしいー。」「大好き!」の声が聞こえます。〜

2番目のワインです。シニアソムリエの金子さんに3つのワインを比較しながらお話していただきました。
2016 グレイス 甲州 中央葡萄酒(株)です。このワインは2016年収穫の甲州を使用して4月頃瓶詰されたので、丁度味が乗ってきたところです。
今日の3つの甲州ワインのポイントは、ぶどうの茎をはずして果汁を搾るところまでは同じです。発酵は大体2週間から長いもので1か月かかりますが、
@ のワインは発酵が終わったらすぐに瓶詰しますので、果汁をそのまま味わいとしてテイスティングしてもらうことができます。フレッシュなフルーツの香りが素晴らしいですね。


A のワインは、ステンレスタンクの中で発酵が終わったら、約半年間そのまま置きます。その間に役目を終えた酵母が澱となって下に沈んでいきます。酵母はタンパク質(アミノ酸)で出来ているので、半年の間で自己消化して旨味となってワインに溶け込んでいきます。すると香りの中にフルーツだけでなく少しイーストのような香りや、味わいの中にもフルーツの他に旨味を感じることが出来ます。

B のワインは発酵を終えた後樽に入れてありますので、樽の香りと熟成感を感じます。


Aの自社のワインについてもう少しお話します。
シュール・リー製法の特徴でワインの味わいに旨味を感じる事が出来ますので、これからの季節のお料理では、おだしのきいたおでんや、ポン酢のたれのお鍋など。又甲州はあまり生臭みが出ませんのでお寿司やカルパッチョなどともよく合います。今年イギリスのワインコンクールで、金賞の中でも更に最高のプラチナの賞をいただいたのがこのワインで、中央葡萄酒の看板的なワインになっています。
〜「すばらしい!参加して良かった」の声あり。〜
3種類の甲州の製法の違いや味わいの違いをお楽しみください。



金子さん有難うございました。
続いて3番目のワインについて佐藤さん説明をお願いします。

2012 GI山梨・甲州樽熟  (株)シャトー勝沼です。
2012年ヴィンテージのワインですので、前の2本に比べてより熟成したワインになります。甲州のポテンシャルを生かす為に古樽で約1年間熟成させてありますので、やさしい樽の香りに包まれた繊細な味わいになっております。〜「色がきれい。飲みやすい。」の声あり。〜
私はレストランにおりますので、私のお勧めのマリアージュをお話したいと思います。フレッシュな味わいの新酒は、甲州ワイン豚のシャブシャブや地鶏のローストがおすすめです。甲州シュール・リーは、さっぱりしたお寿司とか天ぷらに良く合います。天ぷらの場合タレに白ワインを落とすと更に風味が良くなり私は大好きです。甲州樽熟成のワインにはグリルの野菜やチキン、クリームチーズを使ったソースのパスタがおすすめです。又、ここだけの話ですが(笑)、年越しそばを食べる時に、そばつゆに白ワインを落としてみてください。その香りに驚かれると思います。以上です。
佐藤さん楽しいマリアージュを有難うございました。

この後はご自由にワインを飲んでいただきます。勝沼ワイン協会提供のワインが沢山ご用意してございます。その前にゲスト講師がおりますので、こういう機会に親しくお話したり、質問がありましたらお気軽にお聞きください。


この後参加者の皆さんは、思い思いにワインを飲みながら、賑やかにワイン談義に花を咲かせていました。そして何人もの方が私篠原の所に来られて、「初めて参加しましたが、大変勉強になりました。」「いつものセミナーのつもりで参加しましたが、人数も多いしワインも沢山あって驚きました。参加できてラッキーでした。」「ワインの歴史を知ることが出来てとても有意義でした。ワインがとてもおいしいです。又この様な機会を是非作ってください。」などなど沢山の声を聞かせてくださいました。皆様のこういう声が日本ワインの応援団となって、もっともっと大勢の方達にワインの美味しさ楽しさを広めていってくださることを願っています。

今回の「勝沼ワイン140年記念スペシャルワインセミナー」が無事に終了しました。ご協力くださいました勝沼ワイン協会の皆様、ゲスト講師の皆様、甲州市役所の皆様、ご参加くださいました皆様、スタッフの皆様本当に有難う御座いました。心から感謝申しあげます。

 

 



 

 さて、次回のワインセミナーは2018年4月1日となります。エイプリルフールですが必ずやります!!みんなで盛り上がっていきましょう。どうぞお楽しみに!!!    篠原




わいわいガヤガヤの中で作ってくれた貴重なワイン俳句です。ありがとうございました。

勝沼ワイン 歴史を知って 旨さひとしお なおさん
秋空に 色づきにけり もみじ連れ さちこさん
秋空と  ワインセミナー  いと楽し 迷走名人さん
久々の  秋の青空  ぶどう映え ロッカさん
講習で  学ぶ世界の  甲州種 ゆうこさん
ほろよいで  皆が幸せ  140年 しもどんさん
甲州の  エバンジェリスト  篠原さん CKさん
人生は  勝沼に来て  呑んで食べ あゆみさん
秋空に  葡萄の美酒を  呑み比べ Kさん

以上です