かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第95回 2018.6.3





参加者
県外7名 県内6名 計13名

講師
シニアワインエキスパート 篠原雪江

ゲスト
丸藤葡萄酒工業(株) 野田修一郎様
勝沼醸造(株) 安田政史様




アシスタント
深澤さん、尚枝さん


ワインリスト
1 2016 甲州 シュール・リー       丸藤葡萄酒工業(株)
2 2016 クラレーザ シュール・リー    勝沼醸造(株)
3 2016 マスカット・ベーリーA 樽貯蔵  丸藤葡萄酒工業(株)
4 2016 モンテ マスカット・ベーリーA  勝沼醸造(株)



セミナーの内容
1 本日のテーマ「夢の競演 ルバイヤートワインvs.勝醸ワイン」
2 テイスティングワインについて
3 ワイン俳句について



レポート  ぶどうの新緑が美しい季節、梅雨が近いせいか天候が定まりません。にも関わらず不思議な事に朝市の日には快晴になるのですね。今日の勝沼の最高気温は30℃位まで上がり暑くなりそうですが、朝市会場は大勢のお客様でごったがえしています。

セミナーのテントの下はどうでしょう。開始前で皆さん和やかに和気あいあいとしていますが、きょうは丸藤チームと勝醸チームに分かれて、朝市ワインセミナー初の醸造家対決が行われます。と言ってもゲストのお二人はとても仲良しで、今回のセミナーで参加者の皆さんに最高に楽しんでいただく為のパフォーマンスを練りに練って来られたようです。楽しみですね。早速セミナーのスタートです。

先ずは自己紹介をしていただきました。お二人ともワイン造りを目指して県外から来られ、ほぼ同時期にそれぞれ現ワイナリーに入社して醸造を担当しているという、共通の経歴があります。ワインの集まりで出会って意気投合し、良き友人、良きライバルとして現在に至っているそうです。
今回は「バトルをして、ジャッジもします。」とのお申し出でなので、参加者の皆さんにも双方に分かれて応援をしてもらいました。
それぞれのグループの中から一名ずつ応援団長をお願いしたところ、快く引き受けてくれました。
丸藤さんの応援です。

「フレー!フレー!丸藤!ソレーッ!!」 「フレフレ丸藤!!フレフレ丸藤!!」
続いて勝醸さんの応援です。
「フレー!フレー!勝醸!ソレーッ!!」 「フレフレ勝醸!!フレフレ勝醸!!」
迫力ある応援合戦に会場は一気に対戦ムードとなりました。

テイスティングの前にお二人からの説明です。
今回テイスティングするワインは、甲州とマスカット・ベーリーAです。日本を代表する品種を選びました。甲州ぶどうは勝沼で最も多く栽培されていますが、その他に大阪・島根・山形などでも栽培され、ワインも造られています。又勝沼のぶどうを使って他県でワインを造っている所もあるようです。

甲州は輸出も盛んになって来ました。2010年にOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に登録され、ワイン用品種として国際的に認められました。又それに先立ち2009年にKOJ(Koshu of Japan)という団体を立ち上げ、ロンドン市場でプロモーション活動を行い、ヨーロッパに甲州を広める活動を行ってきました。

野田さんから甲州ぶどうの歴史のお話です。

私は歴史が好きなので、甲州の歴史の二つの伝説をお話します。今から約1300年位前の奈良時代(718年)の事です。行基さんという有名な僧侶が日川(にっかわ)のほとりで修業中に、薬師如来様から啓示を受けてぶどうを広めたという説です。年代の覚え方は「その話ナイワ(718)」と覚えてください。(笑)もう一つは平安時代の末(1186年)に、雨宮勘解由(かげゆ)という人が勝沼の山中で見つけたぶどうの木を持ち帰って植えた所、立派な甲州ぶどうがなったという説です。覚え方は「勘解由さんはイイヤロー(1186)」です。
甲州は勝沼では棚栽培が盛んですが、この棚栽培を考案したのが武田信玄の主治医だった長田(永田・・ながた)徳本さんと言われています。湿布で有名な「トクホン」です。当時は竹で棚を作ったそうです。それからぶどうの棚栽培が始まりました。
徳本さんは118才まで生きたとも言われていますが、もしかしたら甲州ぶどうを食べていたんじゃないでしょうか?(笑)

安田さんから甲州ぶどうの伝来のお話です。

甲州ぶどうがどこから伝わって来たのかについて国税庁の酒類総合研究所が調べたところ、ヨーロッパ系品種(ヴィティス・ヴィニフェラ)がシルクロードから中国へ入りヤマブドウなどの野生の品種と交雑を行い、何代もかけて日本に入って来たのが甲州ぶどうではないかと言われています。DNA鑑定をしたところ、ヨーロッパ品種が70%位でその他ヤマブドウなどの野生品種が30%位入っていることが分かったそうです。
甲州ぶどうの特徴として、「病気に強い」「樹勢が強い」というのがありますが、これはやはり野生種のDNAが入っているからではないかと思われます。雨量の多い日本の風土ではヨーロッパ系品種は栽培が難しいのですが、1000年以上も前から栽培されている甲州には、やはりこの地が適しているという事だと思います。

〜ではここからテイスティングしながらワインの説明に入ります。野田さんです。〜
@ 2016 甲州シュール・リー  丸藤葡萄酒工業(株)

色は淡いですね。香りはフルーツや酵母の香り、炊き立てのご飯のホワっとした優しい香りがあります。口に含むと爽やかで上品な味わいです。当社の社長はこのワインをお料理よりも前に出ない、後ろからお料理の味を支えるワイン、例えるならば「3歩下がって控える昭和の女性の様なワイン」と言っています。(笑) 私もその事をしっかりと念頭に置いて造るようにしています。(笑) 後味に少しほろ苦さがあり、甘味や旨味として感じます。お料理との相性ですが丁度この時期では、山菜の天ぷらに塩を少しかけたものや、カニ・エビをボイルしたもの、お寿司などに合うと思います。

このワインの造り方の特徴です。
◎遅摘みのぶどうを使い、選果台でしっかりと選果します。
◎ハイパー・オキシデーションで酸化させる。
甲州の果汁を搾ったら、その果汁に酸素を過剰に触れさせ強制的に酸化させます。醸造段階では出来るだけ酸化させないようにするのが一般的ですが、私達はそれとは真逆な方法をとります。りんごの皮をむいてしばらく置くと、りんごが茶色に変色してきます。それと同じようにぶどうの果汁も茶色になってきます。
1日置いておくと、渋味成分のフェノール類などがくっつき合って下に沈殿してきますので、その上澄み液を使うと果汁からの苦み渋みがとれたジュースになります。このジュースを16℃前後の低温で発酵するとフルーティーなワインになります。
◎シュール・リー製法
発酵するとタンクの下の方にワインの澱が溜まってきます。通常は澱引きと言ってワインを移して澱と離すのですが、シュール・リー製法はこの澱の上に半年位ワインを置いたままにしておきます。澱の中にはアミノ酸が豊富で旨味成分がありますので、時々かき回してその旨味成分をワインの中に抽出させるという方法がシュール・リー製法です。
◎勝沼ボトルを使用
11月頃にワインを仕込み、5月に澱引きして瓶詰めします。このワインは勝沼ボトルに詰めてあります。このボトルは勝沼町内のぶどうを100%使用し、勝沼ワイナリーズクラブの審査に合格したワインのみ使用することが出来ます。

〜続いて2番目のワインの説明です。安田さんです。〜
A 2016 クラレーザ シュール・リー  勝沼醸造(株)
◎色が濃い
@番目のワインに比べると色が少し濃い黄金色になっています。これは熟成が進んでいるのではなく、ぶどうをプレスする際に少し強めにプレスして果皮にある成分を充分に抽出する為です。
◎長い収穫期
ぶどうの収穫は9月中旬から10月末まで続きます。
◎収穫場所ごとの仕込みとブレンド
ぶどうを収穫した地域ごとに仕込みますので、2016年は勝沼産は12のキュヴェになりました。その中で畑の特徴などが良く出ているものは単体のキュヴェとして除き、最終的にこのクラレーザは8のキュヴェをブレンドして出来上がっています。
◎複雑な香り
9月中旬に醸造したものからは柑橘系(レモンとかライム)の香りが強く、10月後半の熟した甲州で醸造したものからは白桃の香りがしてきます。これらのワインをブレンドしますので、ワインの中に若い柑橘系の香りや熟した桃や温州みかんや梨のような香りが混ざり合って、複雑な香りになってきます。口に含むと後味に甲州特有の苦みを感じますが、ミネラル感、グリップ(酸が際立っていて引き締まった印象),下支えなどと肯定的に捉えています。お料理は、例えば筍とワカメの煮物とかアクのある物などにベストマッチだと思います。
<野田さん>・・確かに柑橘系の若い感じも、どっしりとしたフルーツ感もありますね。丸藤では遅摘みぶどう使用なのであまり若々しい柑橘香は無いですね。どちらかと言えばお料理を引き立てる旨味を出すことに注目して造っています。
〜参加者からの質問です。〜
丸藤さんのワインは毎年「三歩下がって・・・」的なスタイルか、又は今年はキュヴェによって違うスタイルに変えようかなどという事はありますか?
<野田さん>・・はい。当社はこの甲州シュール・リーはメイン商品なのでこのスタイルは変えずにいきます。例えばこのワインを10年間使ってくださっているお寿司屋さんがいて、今年はワインの味が変わったのでお寿司と合わなくなったなどという事の無いようにしています。欧州系品種のメルロ、プティベルド、シャルドネなどは三歩下がってというよりは、力強く個性を活かした味わいを目指しています。
〜篠原です〜
折角の同品種、同製法、同ヴィンテージのワインの比較ですので、それぞれのワインの特徴をしっかりと頭に入れておきましょう。

<野田さん>・・この2つのワインの面白い違いはキャップですね。丸藤はコルクで勝醸さんはスクリューになっています。スクリューが多くなるとソムリエさんが自分の仕事が無くなってしまうなんて言いそうですね。(笑)
<安田さん>・・甲州シュール・リーは丁度2016年からスクリューに変えました。コルクは酸素を通すのでスクリューより熟成が早く進みます。スクリューの方が酸素透過率が少ないので良い香りがそのまま保持されるのではないかとの思いで、変えました。先程ソムリエさんの仕事が無くなるなんて話がありましたが、中にはキャップを少しゆるめて、あとは腕の部分に当ててクルクルと抜くなんて人もいるそうです。(実演)(大笑い)

〜ではここで1回目の判定を行います。皆さんのお好きな方に手を上げてください。

数を数えてくれるのは、日本野鳥の会(?)の牧野さんです。(実はメルシャンの醸造担当の牧野さんでした。お二人の為に双眼鏡を持って(?)駆けつけてくださいました。)〜
〜2回上げても良いですか?
〜両方共好みです!の声あり〜
〜慎重に数を数えた牧野さんはニヤニヤしています。〜


〜安田さんのお話です〜
甲州種からはシュール・リー以外にも色々なワインが造られます。樽貯蔵、柑橘香を前面に出したもの、赤ワイン的な造りでオレンジ色を出したもの、スパークリングワインなどなどがあります。

〜引き続きマスカット・ベーリーAに移ります。野田さんの説明です。〜
B 2016 マスカット・ベーリーA 樽貯蔵  丸藤葡萄酒工業(株)

若い青紫がかった色です。香りはマスカット・ベーリーA特有のチャーミングな香りで、樽の香りと馴染んでいます。造り方を説明します。
◎熟したぶどうを除梗して仕込む
韮崎市穂坂地区で収穫したぶどうを除梗して大きなコンクリートのタンクに入れます。タンクの大きさは5000リットル用と10000リットル用がありますが、このコンクリートタンクで発酵させます。
◎ルモンタージュをする
発酵が始まると炭酸ガスによって果皮が上に浮いてきます(果帽という)。液に触れていない上の部分が乾いてしまいますので、そこで下に溜まっている液体をポンプで吸い上げ果帽の上からかけます。この作業をルモンタージュと言いますがそれによって果皮を湿らせ果皮の成分をワインに浸透させます。
さすがに5000リットルの果帽というと人力では動かないので、この方法をとっています。ルモンタージュは5000リットルのタンクは15分〜20分位、10000リットルのタンクは40分位かけて行います。タンクが8つあるのでこの時期は朝から晩まで1日中ルモンタージュをやっています。

1週間〜10日位で発酵が終わりましたらステンレスタンクに入れてマロラクティック発酵をして、落ち着いたら樽に入れて貯蔵します。味わい的にはそれ程濃くないので、お料理は焼き鳥(タレ)、トマトソースのパスタ、ウナギなどがよく合います。キャップはコルクです。(笑)

〜有難うございました。続いて安田さんの説明です。〜
C 2016 モンテ マスカット・ベーリーA  勝沼醸造(株)

当社のワインはやはりBより色が濃いと思います。香りはイチゴキャンディーの香りやバニラ、スパイスなどの香りがします。味わいはタンニンを感じていながらも飲みやすいです。温度は少し冷やして酸味のエッジを利かせると更に美味しく飲めると思います。造り方を説明します。
◎熟したぶどうを房のまま仕込む
丸藤さんと同じく韮崎市穂坂地区のぶどうを90%以上使用して、小ロットで造ります。2000リットルタンクで5〜6のキュヴェに分けています。ぶどうは除梗せず房のまま使います。梗の味わいが出て来てタンニンを加える目的があります。また梗には色素を安定させる成分があるので、色をしっかり残す為にも入れてあります。
◎ピジャージュをしている
ピジャージュとは、人力で櫂を使って果帽を突き崩し、ワインと混ぜる方法です。効果はルモンタージュとほぼ同じです。合うお料理は先程野田さんが言われたものと良く合いますが、焼き鳥の焦げたタレとか照り焼きなどがベストマッチです。

<野田さん>・・マスカット・ベーリーAの造り方は各ワイナリー様々で、少し甘くてチャーミングな感じのものから、濃くてどっしりしたものまで色々な造り方をしています。皆さんに色々飲み比べをして楽しんでもらいたいと思います。
<安田さん>・・当社では熟成したガメイ(クリュ・ボジョレーなど)の良いものを目指して、梗を入れてMC法も使ったキュヴェも造りブレンドしています。
<野田さん>・・これは余談ですが、“山梨県産のぶどうを使い小樽(こだる)で熟成させます“と資料に書いておくと、お客さんが山梨のぶどうを小樽(おたる)まで持っていくのかと言われたことがあります。(大笑)


〜ではここで2回目の判定をお願いします。牧野さんしっかり数えてください。〜
〜参加者の皆さんはワインが入って、もう丸藤応援団も勝醸応援団もなく、楽しんでいるのですべてOKという感じです。〜
〜牧野さん一人でニヤニヤしています。〜

〜まとめに入ります。野田さんです。〜
ワインは品種、産地、天候だけでなく、やはり造り手が違えば目指しているものも違うので味わいが変わるものだと思います。ですがやはり嗜好品ですので、お客様が美味しいと言って買ってくださるワインが一番良いのかなと思います。ワインはグラスの大きさや飲む温度、お料理などを考えて合わせて頂くと更に美味しく楽しく味わって頂けると思います。



〜質問です。〜
この赤ワインは常温で飲むのが良いですか?
日本の常温は夏には30℃以上にもなります。ワインで言う常温はヨーロッパを基準にしているので、18℃位だと思ってください。この赤ワインも16℃位に冷やして、飲んでいる内に18℃位になるのが美味しく飲めると思います。

バトルを終えての感想
<野田さん>・・最後に自分の感想ですが、やはり勝沼醸造さんのワインは美味しいなと思いますね。(笑)「勝沼醸造」さんと言うだけあって、勝沼の歴史に根差していて甲州とマスカット・ベーリーAに特化していらっしゃるのですね。やはりこだわりと熱い魂が伝わってきて素晴らしいと思いました。(笑いと拍手あり)
<安田さん>・・私の感想は、この様に他社のワインと飲み比べをすることはあまりないので、良い機会だったと思います。特に産地まで一緒というのは、今回初めて分かったのですが、面白かったです。やはり丸藤さんのワインはさすがに美味しいと思いました。底力を感じました。(笑いと拍手あり)
<野田さん>・・じゃあ帰りに新田商店でワインを買って、メルシャンさんも一緒に飲みますか?(爆笑)
〜皆さんから大きな拍手が上がりました。〜

野田さん安田さん本当にお疲れ様でした。お二人とも本当にワインに真剣に向き合っていることが良くわかるお話でした。またサービス精神満点で皆さん笑い通しでしたね。今回の企画によって篠原も色々学ばせて頂きました。
勝沼のワイナリーを背負って立つ若い醸造家の方達が、それぞれ競い合いながらも仲良く研究しあって、造り手も納得しお客様にも満足してもらえるワインを目指して頑張っていてくれる姿を感じることが出来てとても嬉しく思いました。篠原のジャッジは丸藤さん、勝醸さんの両方が勝ちという判定です。引き分けではありません。ワインは色々な顔を持っている飲み物です。軽快なワイン、しっかりしたワイン、フレッシュなワイン、熟成したワイン、季節によって飲みたいワイン、特別な時に飲みたいワインなどなど。どのワインもきっとどこかにぴったり当てはまると思います。でもやっぱりワインは大勢でわいわい飲むのが一番ですね。最後に皆で思いっきり大きな声で「カッコウ」の歌を歌って終わりました。いつもぶどうの丘で鳴いているカッコウもきっとびっくりしたことでしょう。


野田さん、安田さん、応援に駆け付けてくださった牧野さん、お忙しい時に本当に有難うございました。参加者の皆さんも大変盛り上がってくださって有難うございました。
次回も盛り上がりますヨ。




篠原

お待ちかねワイン俳句です。
晴天の 下のワインは どれも良し たかさん
競いあい ますます美味しい 勝沼ワイン 残念お名前なしさん
初夏の日に 紅白ワインで いい時間 みかんさん
おいしいワイン 楽しい漫談 ありがとう ひつじさん
赤ワイン キンキン冷えたの 美味しいな モカワンさん
葡萄棚 傍らに咲く バラの花 Kさん
造り手の 個性を満喫 ワインセミナー しもどんさん
今日もかな 毎日取得 MBA うえおさん
造り手の 思いがつまった ベーリーA ちゅんさん
赤も白も みんな違って みんないい ガナーズベリーさん
以上です。