かつぬま朝市ワインセミナーレポート by篠原シニアワインエキスパート
かつぬま朝市ワインセミナーレポート
第49回 2012.08.05



参加者
県外11名 県内2名 計13名
講師 大山シニアソムリエ ・篠原シニアワインエキスパート
ゲスト ぶどう栽培家 竹田 様
アシスタント のぶ子さん 尚枝さん
ワインリスト  
1 ルバイヤート(白)丸藤葡萄酒工業(株)
2 ルバイヤート(赤)  〃
3 勝沼人の大地(白)2011 麻屋葡萄酒(株)
4 勝沼人の大地(赤)2011   〃

料理
1 ドライソーセージ
2 タクワン+おかか梅干し
3 クラッカー+ルバーブのジャム
4 ぶどう(デラウェアー)





セミナーの内容
1 甲州ぶどうのお話
2 甲州種ワインのお話
3 ワインテイスティング
4 本日のゲスト ぶどう栽培家  竹田様のお話

レポート
梅雨(6/9〜7/17)明け後しばらく戻り梅雨の様相を見せた天候でしたが、朝市が近づくにつれ徐々に陽射しが威力を増して、いざ本番は37℃にもなろうというアツーイ朝市でした。
本日のワインセミナーは、いつものルンルンセミナーとちょっと違って、準備をする私の手もついつい滞りがちで…。そんな時一通のメールが入りました。



大山シニアソムリエからです。「体調不良で遅れます。到着は11時ごろになります。」とのこと。さあ大変!いっぺんにスイッチが入りました。

暑い中、このセミナーを楽しみにやって来てくださった方や、当日参加の方でほぼ予定人数が埋まり早速スタートです。今回はリピーターさんが多かったのですが、初参加の方もいらっしゃったので、いつものとおり「甲州ぶどうと甲州種ワインのお話」と「ワインテイスティングの方法」を私篠原がさせていただきました。テイスティングについては、香りはワインの色に合ったお花や果実を連想すると香りがつかみやすい事。また、味わいについては、白ワインは果実味(果実の甘み)と酸味に着目、赤ワインは、果実味、酸味と渋味(タンニン)に着目して味わってみましょうとお伝えしました。

テイスティングワインは、今期のハウスワインの「ルバイヤート白」と「ルバイヤート赤」(丸藤葡萄酒工業(株))です。リピーターさんにはすっかりお馴染みになりましたね。テイスティングの後はいよいよ本日のゲスト竹田さんの登場です。


竹田さんは、フリーの女性栽培家です。フリーというのはワイナリーなどに所属していないということです。約7年間勝沼のある有名ワイナリーに勤務し、栽培を担当しながら醸造の勉強もしてきましたが、ある時ふと自分の考え方でワイン用ぶどうを栽培したいという思いにかられ、とうとう独立してしまいました。以下竹田さんのお話です。


竹田さんがぶどう栽培に関わることになったキーワードは、「心地良い」ということだそうです。子どもの頃からややアレルギー体質だった彼女は、健康の為に、自然に囲まれた空気の良いところで暮らしたいと考え、長野県の避暑地にあるペンションで働き始めました。そこでワインと出会い、その魅力にはまり、早速ソムリエの資格を取得しました。その時期にたまたま休暇で訪れた勝沼で大発見。澄んだ空気やぶどう畑の美しさ、緑の中に身を置く心地良さ、勿論おいしいワインも。是非勝沼でぶどうの栽培をしたいと思ってしまったのです。


「強く求め続ければ、それは向こうからやってくる」というのは(有名な格言ではありません(笑い))、私篠原の信条ですが、まさに竹田さんもその通りで、勝沼に移転してすぐにワイナリーの求人広告を見つけ就職、希望通りの栽培担当になりました。そこでしっかりと栽培の基礎知識を習得し、知識がふくらむにつれ色々チャレンジしたいと思い、自分の畑を持ちたいと考えたのです。



フリーになってまず彼女が手掛けたのが、勝沼町菱山地区にあるデラウエアーの畑です。菱山地区は勝沼町の中でも標高が高く(畑の標高は約600m)、かなり急な傾斜地で、水はけが良く、日照量も多い。また、昼夜の温度差も大きいので、昔からこの地のぶどうは酸がしっかりしていて、味わいに深み(こく)があることで有名で、「菱山ぶどう」のブランドになっている地域です。このデラウエアーの話を友人の醸造家にしたところ、ぜひこのぶどうを使って造りたいワインがあると言って、出来上がったワインが「ルバイヤート ペティヤンデラウエアー 2011 丸藤葡萄酒工業(株)」です。ペティヤンとはフランス語で「パチパチはぜる」とか「泡立つ」の意味で、ワインでは弱発泡性ワインのことをいいます。きょうは大サービスで、竹田さんがこのペティヤンをプレゼントしてくれました。デラウェアーの甘い香り、おいしそうなパンや酵母の香りが溢れます。酸がしっかりしているけれど、全体的に優しい。「可愛らしい」という言葉がぴったりの、ドライ(辛口)の白のペティヤンです。最初から思いがけないプレゼントを貰い皆さんご機嫌です。竹田さんのお話が続きます。



次に手掛けたのがやはり菱山地区にある甲州とベリーAの畑です。昨年(2011年)6月、行きつけの、商店へワインを買いに行ってそこでこの畑を紹介されました。6月といえばすでにぶどうの房が伸び、もうすぐ開花の時期です。「突然の話で、バタバタと引き継ぎました。」ぶどうの栽培は、その時期にやるべきことをきちんとやらないと良い結果が得られません。本当に大変だったと思います。

竹田さんの栽培法は有機栽培です。最小限のボルドー液のみ使用し、除草剤無しの草生栽培で、ワイナリー時代に経験済みで良い結果を出しているそうです。ぶどうの木も人間の体と同じ。病気にかからない様に早めに薬を使用すると、自力で治そうとする力、治癒力、免疫力が無くなり、ずっと薬を使い続けなければならない。自然に近い形での栽培は、病気や害虫などのリスクがあり収穫量も不安定だが、ぶどうの木の自力で生きようとするたくましい力が、香りの高い凝縮した力強い実を結ぶと考えて実行している。「この畑の中にいて、私自身がとても心地良いのです。自分に合ったやり方だと思っています。」



「毎日自然の中にいて、毎日変化を見つける喜び、チャレンジが成功した喜び、収穫の喜び、ぶどうがワインになった喜び、などなどたくさんの喜びをこの畑から貰っています。」竹田さんの言葉に皆さんすっかり聞き入っていました。
そしてその大変だった2011年のぶどうで造ったワインを試飲しました。    

「勝沼人の大地 白2011(甲州)」麻屋葡萄酒(株) 落ち着いた色合いの淡い黄金色。ポンカンなどの柑橘系の香り、パンやロースト香、ナッツなどの香り。完熟ぶどうのたっぷりの果実味とミネラル、しっかりした酸、中盤からのポンカンの皮を噛んだようなスーとした苦み。これらの要素が一体となってこのワインにしっかりとした骨格を形成してボリュームの大きさを感じさせています。 

つづいて、「勝沼人の大地 赤2011(マスカットベリーA)」麻屋葡萄酒(株)です。落ち着きのある淡いルビー色。とてもきれいな色合い。ぶどう由来のキャンディのような甘い香り。百合の花。チェリーやブルーベリー、スパイスの香りがします。たっぷりの果実味と優しい酸、心地良いタンニン。コーヒーの様な軽い苦みが最初から最後まで続き、コクや旨味に変わりこのワインを芳醇な味わいにしている。厚みのあるしっかりとしたボディーですが、とても飲みやすい。食欲をそそるワインです。竹田さんのお話を聞いた後で飲んだこれらのワイン。青い空の下。しっかりと実をつけたぶどうの木。降り注ぐ太陽の光、流れる風、木にも草にも昆虫にも喜びを感じながら、黙々と働く女性の姿が浮かんでくるようです。


今日試飲した「勝沼人の大地」白・赤とも、ボトルの裏ラベルに栽培者、醸造者、販売者の氏名が記されています。非常に珍しいです。実はこのワインは、 
菱山在住の内田秀俊さん(栽培者)がプロデュースして、栽培、醸造、販売の三者が一体となって、勝沼に素晴らしいワインを造りたいとの志を持って立ち上げたオリジナルブランドのワインなのです。まだまだワイナリーの所有する自社畑の少ない我が国のワイン事情の中で、原料ぶどうの栽培者の意識の高まり、責任感や自信が強く感じられる画期的なシステムだと思います。



2010年の栽培者は内田秀俊さん、2011年の栽培者は竹田理子(あやこ)さんになっています。2011年の6月、病の為に栽培をバトンタッチしたのです。

今回のセミナー参加者で2010年の「大地」の白を味わってくださいと、秀俊さんのお父様から残り少ない大切な1本のワインを託されました。秀ちゃんは、明るく楽しくワインを飲むのが好きな人でしたから、みんなでわいわいがやがやと楽しく飲ませていただきました。


そうそうここで、体調不良を押して来てくださった大山シニアソムリエにもお礼を言っておきたいと思います。



秀ちゃん、あなたの志はしっかりと次の方に受け継がれていますよ。ぶどう栽培の楽しさを語ってくれた竹田さんのお話の後、沢山の質問が出され、また、4〜5人の方から畑の忙しい時期に手伝いたいとの申し出でがあったそうです。
おいしい「勝沼人の大地」のワインをありがとう!!

勝沼の大地を愛し
風を愛し
人を愛し
すべてを愛す
勝沼人 ここに在り
私たちの永遠の友  秀ちゃんに  乾杯!!!